第8回
【認知症介護の本】私たちの存在が薬となる
2018.09.13更新
ユマニチュードは、フランスで生まれ、その効果の高さから「まるで魔法」と称される介護技法です。ユマニチュードの哲学では、ケアをするときに「人とは何だろう」と考え続けます。人は、そこに一緒にいる誰かに『あなたは人間ですよ』と認められることによって、人として存在することができるのです。「見る」「話す」「触れる」「立つ」の4つの柱を軸にした「技術」で、相手を尊重したケアを実現します。この連載では、ユマニチュードの考え方と具体的な実践方法を紹介します。
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近年、アイコンタクトや触れることによって人間の体内に生理学的な変化が生じることがわかってきました。
オキシトシンは、出産時の子宮の収縮や母乳の分泌に関与するホルモンですが、最近それだけではない働きを持つことがわかってきました。
オキシトシンの分泌によって不安感が低下したり、相手との信頼関係を構築することが解明され、いわば「愛情と信頼のホルモン」でもあることが発見されたのです。
これは人工的に合成したオキシトシンを吸入することで起こる変化で明らかになったのですが、大変興味深いことに、人工的に合成した薬剤を使わなくても、アイコンタクトや触れることによってもオキシトシンが分泌されていることがわかってきました。
つまり、アイコンタクトをとったり、触れたりすることで、相手の体内でオキシトシンが分泌され、愛情や信頼を感じるようになるのです。
私たちが相手に対して行うコミュニケーションが生理学的な変化をもたらすのであれば、私たちの存在自体が相手にとって薬となります。アイコンタクトをとるたびに、相手に優しくしっかりと触れるたびに、気分がよくなる薬を飲んでもらっているのと同じ効果を生むことができるのです。さらに、この効果は双方向性で、アイコンタクトをとったり、触れたりしている私たちにも同様に起こっています。
つまり、私たちもまた、介護を受けている方から生理学的な影響を受けています。アイコンタクトや触れることで、私たちは互いに愛情と信頼の贈り物を交わしています。これがよい関係を結ぶ基礎となり、「あなたのことを大切に思っています」と伝え合うことを可能にするのです。
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