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家族のためのユマニチュード その人らしさを取り戻す、優しい認知症ケア イヴ・ジネスト ロゼット・マレスコッティ 本田美和子

第3回

【認知症介護の本】優しさを伝える技術

2018.08.28更新

読了時間

ユマニチュードは、フランスで生まれ、その効果の高さから「まるで魔法」と称される介護技法です。ユマニチュードの哲学では、ケアをするときに「人とは何だろう」と考え続けます。人は、そこに一緒にいる誰かに『あなたは人間ですよ』と認められることによって、人として存在することができるのです。「見る」「話す」「触れる」「立つ」の4つの柱を軸にした「技術」で、相手を尊重したケアを実現します。この連載では、ユマニチュードの考え方と具体的な実践方法を紹介します。
「目次」はこちら

優しさを伝える技術

「あなたのことを大切に思っている」ことを伝えるための技術

「あなたのことを大切に思っています」ということを介護を受ける方が理解できるように伝えるために、ユマニチュードではケアをするときにはいつも、4つの柱・「見る」「話す」「触れる」「立つ」を用いて行います。
 とくに目新しいことはないように思えますが、介護をするご家族が「見て、話して、触れる」とき、それは「自分がやりたいことをするために」行っていることがほとんどです。
 たとえば、食事の介助をするときに口元を見たり、着替えてほしいときに「さあ、着替えますよ」と話しかけたり、体を洗うときに手首をつかんで腕を持ち上げたりしています。これらの行動は食事、着替え、入浴、というような、いわば「作業」のための動作で、この動作に「あなたを大切に思っていますよ」というメッセージを見つけるのは困難です。
もちろん、食事をしたり、着替えをしたり、入浴をしたりすることは必要なことですが、これを単なる「作業」の時間にするのではなく、この時間を「あなたのことを大切に思っています」というメッセージで満たされた、コミュニケーションの機会であるととらえ、介護を受ける人とよい関係を結ぶ時間になっていくように心がけます。

大切な人を前にしたときに無意識に行っていること

 実は、私たちは自分が大切だと思っている相手に対しては、ユマニチュードの4つの柱「見る」「話す」「触れる」「立つ」を無意識に行っています。大切な存在の象徴として、赤ちゃんを例に挙げて考えてみます。赤ちゃんを目の前にしたとき、誰もがその目をのぞき込んで、見つめながら「かわいいね」と話しかけ、両腕でしっかりと抱きかかえます。これは人の自然な反応です。同じように、生涯を通じて誰かとよい関係を結びたいと思うとき、人は無意識にこの行動をとっています。たとえば大好きな恋人と過ごしているときのことを想像してみてください。とても近い距離で見つめ合ったり、素敵な言葉をささやいたり、しっかりと触れ合ったりした経験をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。

介護を受けている人には、それを意識的に行う

 しかし、その対象が介護を受けるような脆弱で困難な状況にある方の場合には、このような行動を自然に行うことは誰にとっても難しいのです。ここで「あなたのことを大切に思っています」というメッセージを届けるためには、大切な人に対して自分が無意識に行っている行動を、意識的に行います。
 つまり、「自分が大切だと思う人を自分はどう見ているか、話しかけているか、触れているか」を改めて振り返り、それを「技術」として実践することが必要になるのです。

気恥ずかしくても、思い切ってやってみる

 私たちは、ご家族の介護をしていらっしゃる方々を対象にした講習会を開いています。そこでは、とりわけ「見る」「話す」「触れる」技術についてじっくりとお伝えしています。多くの方は、当初気恥ずかしくお感じになるようです。しかし「これは相手とよい関係を結ぶための技術なのだ」とご自分に言い聞かせて、思い切ってやってみてください。実際に2時間の講習会の中で、参加している方々がどんどん変わっていくことを私たちは毎回目の当たりにしています。思い切ってやってみると、介護を受けている方からこれまで思いもよらなかった反応が返ってくるかもしれません。これまでにないよい反応が返ってきたなら、それは相手とよい関係が築けた証拠です。
 この本では、相手とよい関係を結び、ともによい時間を過ごすための基本的な考え方とその方法について、とりわけ認知症の方への介護を中心にお伝えしていきます。

◆大切な人に私たちが無意識にしていること

見る、話す、触れる、立つ

◆ユマニチュードの4つの柱を使って、意識的にやってみる

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  • みんなの感想

    たちつてと

    優しさが一番大切だと知ってよかった。これから頼りになります!

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  • みんなの感想

    たちつてと

    優しさが一番大切だと知ってよかった

    返信
著者

イヴ・ジネスト/ ロゼット・マレスコッティ/本田美和子

【イヴ・ジネスト】ジネスト‐マレスコッティ研究所長。トゥールーズ大学卒業。体育学の教師で、1979年にフランス国民教育・高等教育・研究省から病院職員教育担当者として派遣され、病院職員の腰痛対策に取り組んだことを契機に、看護・介護の分野に関わることとなった。【ロゼット・マレスコッティ】ジネスト‐マレスコッティ研究所副所長。SASユマニチュード代表。リモージュ大学卒業。体育学の教師で、1979年にフランス国民教育・高等教育・研究省から病院職員教育担当者として派遣され、病院職員の腰痛対策に取り組んだことを契機に、看護・介護の分野に関わることとなった。【本田美和子(ほんだ・みわこ)】国立病院機構東京医療センター総合内科医長/医療経営情報・高齢者ケア研究室長。1993年筑波大学医学専門学群卒業。内科医。国立東京第二病院にて初期研修後、亀田総合病院等を経て米国トマス・ジェファソン大学内科、コーネル大学老年医学科でトレーニングを受ける。その後、国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センターを経て2011年より現職。

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