第10回
【認知症介護の本】よくある困った状況とその対応
2018.09.20更新
ユマニチュードは、フランスで生まれ、その効果の高さから「まるで魔法」と称される介護技法です。ユマニチュードの哲学では、ケアをするときに「人とは何だろう」と考え続けます。人は、そこに一緒にいる誰かに『あなたは人間ですよ』と認められることによって、人として存在することができるのです。「見る」「話す」「触れる」「立つ」の4つの柱を軸にした「技術」で、相手を尊重したケアを実現します。この連載では、ユマニチュードの考え方と具体的な実践方法を紹介します。
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ごはんを食べてくれない
この章では、ご家庭でよく経験する困った状況に、ユマニチュードの考え方や技術をどのように使ったらよいかを具体的に考えてみることにします。
せっかく用意したのに、いつまでもごはんを食べてもらえないときに、「早く食べて!」と急かすだけではうまくいきません。「介護では相手とよい関係を結び、よい時間を過ごすことを目的とする」ことは、食事についても同じです。
一緒に食卓を囲んで分かち合いながら食事をすることで、食べてもらえるようになることもあります。さらに、認知症の方の場合には、これまでご紹介してきた病気の特徴に対応した介助の方法が役に立ちます。具体的な例をいくつかご紹介します。
どれから食べてよいかわからない
認知の機能が低下すると、物を選択することが難しくなります。
そのため食卓にたくさんのお皿が並ぶと、どれを選んだらよいのかわからなくなって混乱します。
そんなときは、目の前に一つずつお皿を出して、選ばなくてもよい状況をつくるとよいかもしれません。
食べ物を認識できるようにする
認知症の特徴として、視野が狭くなって正面にある物しかわかりにくくなっていることがありました。そのため、食事の介助をするときには、お皿に載っているものをスプーンですくってそのまま口元に運ぶと、いきなり口に何かが突っ込まれたと、びっくりしてしまう可能性があります。スプーンですくったら、一度相手の目の高さまで上げて、「このお肉をこれから食べますよ」とお示しになってください。
よくお受けする相談に「食事を介助するときに口を開けてくれない」ということがありますが、食事がそこにあることを認識できていないので、口を開けてくれないのかもしれません。「食事がここにありますよ」と、ご本人が認識できるように知らせてみてください。
▲見えていない物を突然口に入れられると、びっくりします。
▲「これを食べましょう」と視界に入れた後で口へ運びます。
お箸やスプーンが使えないことも
さらに認知症が進行すると、「手続き記憶」も失われてしまい、お箸やスプーンをどのように使ったらよいか忘れてしまうこともあります。一緒に食卓について「こうするんですよ」と示すこともできますが、それでもわからなくなってくれば、道具を使わずに食べる工夫をします。おにぎりにしたり、カナッペのように指でつまんで食べられるような形でお出しすることもよいかもしれません。
味覚も変化する
また、年齢を重ねると味覚も変化してきます。とくに舌の味を感じる細胞(味蕾(みらい))の数が減ると、塩味や甘味を感じにくくなってしまいます。だからといって、塩の量をどんどん増やしては体に悪いので、塩の代わりに酸味や香辛料、香味野菜などを使うと、おいしく食べてもらえる可能性が高まります。
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