第16回
本田美和子氏インタビュー③
2020.01.20更新
科学ジャーナリストが見た、注目のケア技法「ユマニチュード」の今、そして未来。『「絆」を築くケア技法 ユマニチュード』刊行を記念して、本文の第1章と、日本における第一人者・本田美和子氏インタビューを特別公開! 全18回、毎週月曜日(祝日の場合は火曜日)に更新します。
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Q 日本で最初にユマニチュードのケアを導入したとき、どんな反応だったのでしょうか。
A その年の夏、日本に来ていただき、看護師さんを対象にユマニチュードの研修会を開きました。最初はみんなものすごく緊張していました。外国人から学ぶ経験は一度もなかったからです。ジネスト先生は誰に対してもオープン、温かく迎えてくれる。その一方で難解な哲学を語る。病院にとっては、医師や看護師の免許がない人がケアの指導をすることが初めての経験でした。病院の理解があったことにとても感謝しています。
ベッドサイドでジネスト先生がケアをすることで、みんなが困っている患者さんのケアがうまくいくところを見ていただくことができました。看護師さんたちは皆、とてもびっくりしていました。
見ること、話すことは仕事の基本であり、特に目新しいものではない。しかし、このような考えに基づき、このように使うのは初めての経験でした。しかも、それを用いてベッドサイドに行くと、自分たちが毎日のケアで困っていた患者さんに対してこんなにうまくいく。どうせ話をしないと思っていた方が話しはじめるなど思いがけない反応がたくさん生まれてくる。困難だと思っていたケアを穏やかに受け入れてもらえる。このようなユマニチュードの効果を目の当たりにして、これをよりやっていきたいと強く思ってくれました。もっと学びたいという気持ちが芽生えました。
Q それからあっという間に注目を集めましたね。
A 私たちがユマニチュードについて聞いてくださいと宣伝したことはなかったんです。どこかで聞いた、噂で聞いたという医療・介護関係者や学者の方々から見せて欲しい、教えて欲しいというお話をいただき、2013年の夏に特別養護老人ホームにジネスト先生と行き、入居者の方へのケアを実践することになりました。歩かなくて困っている、食事をしてくれない、大声をあげる。介護施設でよくあるケースですが、そういう方々にユマニチュードのケアを行い、その様子を見ていただくことになったのです。それが新聞で紹介され、情報学の先生からは共同研究をしないかと声をかけていただきました。その後、NHKなどのテレビ番組でも特集されました。忘れられないのは、ジネスト先生がNHKの「クローズアップ現代」に生放送で出演されたときに最後にお話しになったことです。「攻撃的な認知症の患者さんなどいない。彼らはただ私たちが彼らを理解していないために行っている振る舞いから自分を守ろうとしているだけなのだ。あれは防御なのです」とおっしゃったのです。とても印象的な言葉でした。
Q ユマニチュードは魔法ではなく技術であることを強調していますが、それはなぜなのでしょうか。
A それは、ユマニチュードは誰でも学べばできるものだからです。ユマニチュードは、最初から存在していた技術ではありません。ジネスト先生たちがケアの現場に行って、あるときはうまくいくのにあるときはうまくいかない、それは一体なぜなのかということをつぶさに観察した。その観察と経験から生まれた技術です。技術によってうまくいくいかないが決まる。ですから、正しい技術をどのように身につけるかが重要となるわけです。
最初にフランスに行ったとき、ユマニチュードのマニュアルがあり、それをもとに学ぶのだと思っていました。医学では、例えば内科ではワシントンマニュアルというマニュアルがあり、どのように診察、検査、診断、治療をするのかを学びます。ユマニチュードもそういう形で学ぶのだろうと思っていましたが、違いました。
重要なことは、ここで私たちが考えなければいけないのは何かということを考える、ということでした。考えることを考える。それを彼らはケアの哲学と呼んでいます。ケアの哲学にもとづいて、この瞬間に必要なものは何かを選択する。必要な技術を必要な瞬間に必要な順番で繰り出すにはその根拠となる基本的な考え方があります。それを学ぶことがユマニチュードを学ぶことなのです。
「魔法ではない。技術だ」というのは、ケアの哲学に基づき技術を選択するということ。「ケアする人とは何か」と「人とは何か」という命題についての思索とその場で必要な技術の選択によって困難であった問題を解決できる。それがユマニチュードの特徴だと私は思います。
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