第4回
【認知症介護の本】記憶の機能
2018.08.30更新
ユマニチュードは、フランスで生まれ、その効果の高さから「まるで魔法」と称される介護技法です。ユマニチュードの哲学では、ケアをするときに「人とは何だろう」と考え続けます。人は、そこに一緒にいる誰かに『あなたは人間ですよ』と認められることによって、人として存在することができるのです。「見る」「話す」「触れる」「立つ」の4つの柱を軸にした「技術」で、相手を尊重したケアを実現します。この連載では、ユマニチュードの考え方と具体的な実践方法を紹介します。
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記憶のしくみと特徴
介護の具体的な話の前に、まず人の記憶について考えてみます。というのも、記憶のしくみと特徴を知っておくと、認知症をお持ちの方の介護をするときに役に立つことがたくさんあるからです。
認知症をお持ちの方を介護しているご家族からの相談を、最近よくお受けします。「突然怒り出す」、「何度も同じことをたずねられる」、「お金の計算ができなくなった」、「どうしてもごはんを食べてくれない」、「お風呂に入ってくれない」、「どこかへ行ってしまおうとする」、「出かけた後に家に帰れなくなる」など、大切な家族だからこそ介護をしたいと思っているのにうまくいかず、ご本人と対立したり、途方に暮れたりしている方もいらっしゃいます。
そしてそのために介護をとてもつらく感じたり、つい怒ってしまって、その後「優しくできなかった」とご自分を責めてしまうことすらあります。介護に疲れ切ってしまって、どうしていいのかわからないというご家族の相談を私たちは数多く伺ってきました。
認知症をお持ちの方の介護をするときには、介護を受ける方がどんな状況にあるのかを知ることが役に立ちます。まずは、記憶のしくみと特徴を理解しておくと、困った状況が生じたとき、その対策を立てやすくなります。
◆記憶の機能
出典:ジネスト・マレスコッティ研究所
「短期記憶」・「長期記憶」
私たちは周囲の状況を目や耳や鼻や舌、皮膚などの感覚器を通して情報として知覚します。人が知覚できる情報は膨大で、そのうち自分にとって必要なものだけがフィルターで選択されて脳に届きます。たとえば、私たちが読書に熱中しているときに横から話しかけられても気づかないのは、その声がフィルターを通過していないからです。フィルターで選択されたすべての情報は、まず1つ目の記憶の箱に入ります。これを「短期記憶」と呼んでいます。「短期記憶」はたくさん覚えておくことができず、また長くはもちません。ほとんどの「短期記憶」の内容はそのまま忘れられていきます。「短期記憶」の中で「覚えておこう」と脳が判断した内容だけが「長期記憶」と呼ばれる記憶の倉庫に入ります。
認知症の特徴の一つは記憶の障害です。記憶の障害は、まず「短期記憶」から始まります。「短期記憶」が失われると、今あったばかりの出来事を覚えておくことができません。ですから1分前に「今何時?」とたずねて「3時ですよ」と答えてもらったことを覚えておくことができずに、再び「今何時?」とたずねてしまいます。ご家族にとってはもう10回も答えていることでも、ご本人にとっては「初めてたずねる」ことなのです。
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