第13回
見えているのに見えてないもの
2019.02.14更新
【 この連載は… 】 植物選びの基準は「いい顔」をしているかどうか……。植物屋「Qusamura(叢)」の小田康平さんが、サボテンや多肉植物を例に、独自の目線で植物の美しさを紹介します。植物の「いい顔」ってどういうことなのか、考えてみませんか?
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凝視せざるを得ないほど植物は魅力的
植物の魅力がどこにあるのか。これは植物を生業としている僕たちにとって、常に考えなければならないことだ。それはみずみずしさや、変化や、多様性であったりするが、その一つに植物の「ディテール」がある。緻密なつくりや造形は神秘的で美しい。だが、そのディテールを味わうためには、少し注意して視界を狭めなければならない。人はものを見るときに全体を捉えがちだ。まずおおよそを把握し、なんとなく理解しただけで好き嫌いを決めてしまう。ディテールを観察するところまで辿り着ける人が少ない。ディテールとは、「見えているのに見えてないもの」なのだ。植物学者でもあるフランスのガラス工芸家エミール・ガレは、視覚を自由自在に絞ることができた。植物の虜になった彼の極めて細部にこだわった、植物の表現には驚かされる。今回はアリの目になって、サボテンを見てみる。幾何学的、あるいは偶発的な造形で植物が成り立っているのがわかる。植物のディテールには数億年かけて進化してきた機能性が備わっている。その不思議で知的な意味を知ると、植物を凝視せざるを得ないほど植物は魅力的だ。
アストロフィツム 恩塚鸞鳳玉(おんづからんぽうぎょく)
遠目からは白点がグレイの肌についているだけに思ってしまうが、よく見ると点や線がランダムに配列され、「この並びは遺伝子のどういう伝達でできあがっているのだろうか」「なぜ白い塊はできないのだろうか」と考えてしまう。白点が肌にあることにより、強光線の日焼けから身を守る。そして白点があることで全体が灰色に見え、周囲の灰色の石に擬態し、トカゲなどの外敵に見つからないようにしている。
ロホホラ 銀冠玉(ぎんかんぎょく)
饅頭のような肉厚でぼってりとした肌と、対照的なブロンドヘアーのような美しい毛並み。ここまで寄ると、もはやなんの生物かわからないような異質な存在。刺が象徴的であるサボテンが進化の過程でここまでかけ離れた姿になってしまった。この毛が鶏冠のように見えるということが、ロホホラという名の由来である。
エピテランサ 月世界
クモの赤ちゃんが隊列を組んで行進しているような造形。すべての刺の本数は同じで、いとも簡単に緻密なつくりを正確に再生し続ける。この刺は、強い太陽光線から肌が焼けてしまわないように、日よけの役割をしている。知恵があるわけでもなく、学習をするわけでもない植物が、見事にヒトの作り出した日傘と同じものをまとっている。
マミラリア 断琴丸(だんきんまる)
無数の凹凸でできあがっているサボテン。この凹凸があることで、体表面積が飛躍的に大きくなる。疣と疣の間を風が通り抜け、日中高温となってしまった体温は、夕方には速やかに冷えていく。突起の部分は水分量が少ないために、日光が当たると紫に紅葉する。美しいサボテンの色の変化を味わうことができる。
この連載は、「月刊フローリスト」からの転載です。
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