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叢のものさし 小田康平

第14回

支柱をデザインする

2019.03.14更新

読了時間

【 この連載は… 】 植物選びの基準は「いい顔」をしているかどうか……。植物屋「Qusamura(叢)」の小田康平さんが、サボテンや多肉植物を例に、独自の目線で植物の美しさを紹介します。植物の「いい顔」ってどういうことなのか、考えてみませんか?
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紅葉碧鸞(こうようへきらん)
鉢:西村昂希 支柱:賀茂クラフト[材料:鉄]

親木として何度も切られ、その度に不思議な枝を出し子株をつけてきた個体。もはや鸞鳳玉系の形とは似ても似つかぬ異様な風貌となってしまった。接ぎ木であるためにその異様なシルエットは地を這うことなくインパクトのある姿を宙に浮かせているが、その姿を維持させるためにどうしても支柱が必要になってくる。シンプルかつ機能性と強度を持たせた支柱を製作した。

ユニークな植物にはそれ専用の支柱をこしらえる

鉢植えを美しく見せたいと思ったとき、植物以外にも気を使わなければならないものがいくつかある。それは器であったり、表土であったり、受け皿であったり。ときに、洗練されたアートや家具などと空間の「占有権」を争う場合、もしくは、それらと親和性高く共存させる場合、鉢植えはトータルでの完成度が問われることになる。主人がスポットライトの当たるようなお気に入りの場所に鉢植えを据え置こうとしたとき、そのオブジェのなかに見るに忍びない残念な部分が交じっていると、そのかっこいい空間に植物を置くことをやめてしまうかもしれない。そうならないためにも、細部に気を使うこと(あくまでも細部は主張しすぎず、植物を生かすための引き立て役であることが望ましい)はとても大切なことである。
植物は「生きている」ということが最大の特徴だ。したがって、生きている限りわずかではあるものの、絶えず動き続けている。鉢植えの植物が限られた土の中で生長していく場合、サイズが大きくなるにしたがってしばしば支柱が必要になってくる。この支柱というのはなかなかの曲者で、鉢植えのなかに取り入れてしまうと、なんだかすごく植物が弱々しく見えてしまったり、空間の抜けが遮られたりで、ビジュアル的にいいことは何一つない。鉢植えに支柱の必要性が生じてしまったときには、植物を支えるという本来の機能性を維持しながら、どうにか支柱を組み込まなければならない。考え方としては、支柱を隠してしまうという方法か、あるいは支柱が見えたとしても鉢植えと一体となり完成度が高くなるような支柱を用意するという方法があるだろうが、ここでは「見せる」という視点から支柱を考えるので、後者の考え方となる。植物の柔らかく歪な線を強調させるために、あえて直線を意識して取り入れる。まっすぐな線が空間を断ち切ることで植物の線が浮き上がる。ユニークな植物に対し、それ専用の支柱をこしらえてやることで個性が一層際立ち、価値が上がる。自立できなくなってしまった植物と、マイナス因子であった支柱をうまく組み合わせることで一段上の鉢植えとなる。
画像は、支柱付きのモンステラ・デリシオーサ。支柱の足元をあえて球体にしてそれ自身では立てないようにした。植物を支えるどころか、植物に支えられる支柱。自立できない支柱と自立できない植物が支え合い成り立っている。支柱としての機能性を維持しながらも人工物の不完全さを表現した。

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この連載は、「月刊フローリスト」からの転載です。
最新話は、「月刊フローリスト」をご覧ください。

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著者

小田康平

1976年、広島生まれ。2012年、〝いい顔してる植物〟をコンセプトに、独自の美しさを提案する植物屋「叢-Qusamura」をオープン。国内外でインスタレーション作品の発表や展示会を行う。最新作は、銀座メゾンエルメス Window Display(2016)。http://qusamura.com

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