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叢のものさし 小田康平

第16回

叢の空間植栽 明福寺 中編

2019.06.06更新

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【 この連載は… 】 植物選びの基準は「いい顔」をしているかどうか……。植物屋「Qusamura(叢)」の小田康平さんが、サボテンや多肉植物を例に、独自の目線で植物の美しさを紹介します。植物の「いい顔」ってどういうことなのか、考えてみませんか?
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埼玉の圃場にて。決して南国の植物だけでなく、さまざまな地域の樹木を組み合わせ、施主が思い描くジャングルのような庭を作り上げる。

 

ジェフリー・バワの植栽で印象に残るのは、プルメリアやヤシ類、ドラセナ類、シダ類などの植物だ。これらの植物をそのまま植えることができれば、比較的容易にイメージの植栽を作り上げることができそうだ。しかし、熱帯地方の植物で都内の寒さに耐えられるものは少ないので、全体の印象重視でアプローチをかけていく。まず、各エリアでメインとなる植物を常緑の広葉樹中心に探す。特に樹種にはこだわらず、スケール感と枝ぶり、葉の照り具合などで探していく。周知のことだが、埼玉は日本を代表する植木の大産地。限られた時間のなかでお目当ての植物にたどり着くには、仲介してもらう案内役に僕の植物に対する考え方、プロジェクトのコンセプトをきちんと理解してもらう必要がある。一般的に、庭木の探し方はサイズと樹種名を頼りにして行われる。しかし、樹種問わずの僕の探し方をするとなると、意思疎通ができているかどうかがとても重要になり、ピンポイントで圃場を訪ねることが可能になる。
こうして多くの圃場のなかから、樹高8メートルの大きな株立ちのモチノキとアンブレラ型のカクレミノに巡り会えた。樹種だけでいうと、これらはいたって一般的な緑化樹だが、植物の個性という視点で見たときにとてもキャラが立っているどこにもない2本だった。この2本で庭全体のアウトラインを形作る。続いてジャングルや南国の印象を演出する、ユズリハ、ニオイシュロラン、イトバショウ、チャメロプス、デイゴ、ディクソニア、カミヤツデを加える。これらは必ずしも南国の植物というわけではないが、葉の大きさ、葉序などはジャングルにあってもおかしくないような植物たちだ。調べてもらうと一目瞭然だが、これらの植物はアフリカ、アジア、オーストラリアなど原産地が幅広く、あちこちの樹木で全体の印象が一つにまとまってしまうのは実に不思議なことだ。我々のジャングルに対しての印象がかなりざっくりしたものだからに違いない。
さらには、それらの樹種が浮き立つようにシルエットの異なる植物を合わせる。ダシリリオン、ユッカ・ロストラータ、ユッカ・フィリフェラ、ダイオウマツ、などがそれに当たる。これら植物が重なることで、奥行きを与え鬱蒼とするジャングルを彷彿とさせる風景が出現する。

[ 次回へ続く ]

圃場にはさまざまな樹種が点在しており、樹形も千差万別。自らの目で確かめないと好みのものを選ぶことは難しい。

 

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この連載は、「月刊フローリスト」からの転載です。
最新話は、「月刊フローリスト」をご覧ください。

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著者

小田康平

1976年、広島生まれ。2012年、〝いい顔してる植物〟をコンセプトに、独自の美しさを提案する植物屋「叢-Qusamura」をオープン。国内外でインスタレーション作品の発表や展示会を行う。最新作は、銀座メゾンエルメス Window Display(2016)。http://qusamura.com

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