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叢のものさし 小田康平

第22回

サボテンの和名

2019.11.14更新

読了時間

【 この連載は… 】 植物選びの基準は「いい顔」をしているかどうか……。植物屋「Qusamura(叢)」の小田康平さんが、サボテンや多肉植物を例に、独自の目線で植物の美しさを紹介します。植物の「いい顔」ってどういうことなのか、考えてみませんか?
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赤陣丸(せきじんまる)
鉢  田宮亜紀

上部の穂木のサボテン和名が台木のサボテンにマジックで書かれてある。
ちょっと台木に気を使ったような小さな文字にはサボテンに対しての罪悪感があるのかもしれない。

サボテン和名は、詩的な趣を兼ね備えたとても素晴らしい名前なのだ

サボテンに関わらず、あらゆる地球上の生物にはラテン語の正式名称が付くことは周知の通りだ。サボテンの種類はおおよそ1400種類程度あると言われているが、そこに近代からの園芸種を含めると実に8000種を超えると言う。園芸種の作出は世界的にみても日本の貢献が群を抜いており、世界のサボテン園芸を牽引してきた。わが国ではそんなサボテンたちがより趣味家たちに愛されるように、サボテンの原種や園芸種に「サボテン和名」なるものを付けてきた。その和名数は7000~8000種存在するから驚きだ。この和名は明治や大正、昭和初期に付けられたものが多く、実に巧妙な漢字があてがわれている。その名前を見ていると当時の名付け親である園芸家や植物学者たちがどれほどサボテンを愛していたかということは想像に難くない。例えば、サボテン園芸のなかで特にポピュラーな種類の一つに「鸞鳳玉」がある。「ランポウギョク」と読むこのサボテンは業界の中ではすでに「ランポー」の名称として世界共通語となっており、正式名称の学名よりもはるかに普及している。「鸞」「鳳」どちらの字も格の高い霊鳥を表す文字で、名付けられた当時このサボテンがどれだけ愛すべき存在だったのかが伝わってくる。鸞鳳玉の研究は昭和時代に中・四国地方で盛んに行われ、たくさんの鸞鳳玉から派生する園芸種が生まれた。現在流通している「~鸞鳳玉」のいくつかはそこから出たものだ。「恩塚鸞鳳玉」や「四角鸞鳳玉」などもしかしたら聞いたことがある人もいるかもしれない。
海外の園芸家のサボテンハウスに行くと漢字のラベルがあちこちで見られ、その多くが日本からの作出であることを意味している。叢ではサボテンを扱う際、できるだけこの情緒あるサボテン和名を使用するよう心がけている。先人たちの感性やセンスに触れ、そのおもしろさを植物の魅力の一つとして知ってもらいたいからだ。こうした植物にまつわるたくさんの背景を知ることは、植物の魅力を伝える一つのツールになるに違いない。サボテン和名は、単純な記号としての名前の役割を超え、詩的な趣を兼ね備えたとても素晴らしい名前なのだ。
だが、その一方で、残念なことにそれら和名の由来の多くはすでに知る術がない。これはその価値が注目されず文献として残されてこなかったからだ。さらには、ここ半世紀ほどのうちに発見され国内に輸入されたものや、作出され園芸界に登場してきたサボテンたちには和名が付けられることは稀で、学名のままカタカナ読みで呼ばれることが多いのは少し寂しい。これは現代の日本人にとって英語やカタカナ読みが受け入れやすい環境になったこともあるのだろう。
ここでサボテン和名のなかで特にユニークなものを挙げてみる。「梅キリン」「子供大将」「ガチョウ和尚」「昔日の太陽」「濡衣」……。これがサボテンの名前なのかというものばかり。子どもたちにこの名前だけでサボテンの絵を描いてもらったらとんでもなくおもしろい絵ができあがるかもしれない。どのような背景で、なぜこんな風変わりな名前が付けられ、さらに周知されていったのかとても不思議なものである。これらは紐付いている学名などで調べてみるとおおよそどのような形態のサボテンかは推測できるが、流通となると皆無に近いかもしれない。しかし、これほどではないにしろたくさんの魅力ある和名の付けられたサボテンが存在する。サボテン和名からサボテンに入るのもおもしろいかもしれない。

 

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この連載は、「月刊フローリスト」からの転載です。
最新話は、「月刊フローリスト」をご覧ください。

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著者

小田康平

1976年、広島生まれ。2012年、〝いい顔してる植物〟をコンセプトに、独自の美しさを提案する植物屋「叢-Qusamura」をオープン。国内外でインスタレーション作品の発表や展示会を行う。最新作は、銀座メゾンエルメス Window Display(2016)。http://qusamura.com

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