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叢のものさし 小田康平

第5回

素人的な発想

2018.06.12更新

読了時間

【 この連載は… 】 植物選びの基準は「いい顔」をしているかどうか……。植物屋「Qusamura(叢)」の小田康平さんが、サボテンや多肉植物を例に、独自の目線で植物の美しさを紹介します。植物の「いい顔」ってどういうことなのか、考えてみませんか?
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紫太陽というサボテンの接ぎ木。そこまで珍重されているサボテンではないので、胴切りして子株が増えたところで価値が高まるということはあまりない。それよりも柱サボテンの上で子株がいびつに伸び、奇妙な風貌になったところが素人感覚的におもしろいと思う。

自分が感じたままにその感動を表現することが大切だと思った

叢を立ち上げたのは今から約6年前。植物に興味を持ち、植物の新しい見方を提案しようと無我夢中で会社を立ち上げた。サボテンを中心に販売していこうと考えていたにもかかわらず、当時つながりのあったサボテン生産者は全国でわずか1軒のみ。無謀でしかなかった。都内で開催されていたサボテンフェアなるものに出向き、飛び込みで生産者や業者を巡り、思いを伝えサボテンを買う。自分の価値観だけで植物を選ぶので、いつも作り手のお気に入りのものとは真逆の、いびつでヘンテコなサボテンを手に取る。だからどこに行っても、どの生産者を訪ねても、返ってくるのは「絶対(会社が)潰れるからやめとけ!」「こんなの商品にならんよ」の言葉ばかり。その言葉を聞くたびに、実は自分の中で「これは相当チャンスだな」とほくそ笑んでいた。この業界には自分の思う価値観で植物を見ている人は誰もいないんだなと思ったから。それはもしかしたら当たり前だったのかもしれない。僕が圧倒的素人でサボテン業界に入っていったのだから。

サボテンを詳しく知らない自分にとって、愛好家やサボテン業者のハウスを訪ねることは、毎回毎回が発見の連続だったし、驚きの連続だった。見たこともない植物に出会えることが楽しくて仕方なかった。
その頃の感覚は、自分にとって最も大切な感覚だと信じている。サボテンの品種を覚え、育ち方を理解し、経験を積めば積むほどサボテンに慣れてくる。次第に感動や発見も少なくなり、感情の振れ幅は小さくなるし鈍くなる。玄人的な考え方は、経験則や客観的な意見が入り込み、頭の中で瞬時にたくさんあったはずの選択肢を限定的にしてしまう。かたや素人的な考え方は、安易で直感的な分、素直でわかりやすい。植物の新しい価値観を伝えていくためにはシンプルに自分が感じたままにその感動を表現することが大切だと思った。

植物をセレクトするときにはこの感覚はかなり役に立っている。僕が植物を手に取るときには少なくとも10くらいの理由がある。その理由は素人ならではの純粋に感じたままの感覚。だからその植物のどこが好きかは10くらい語ることができる。そのくらい語るとお客さんは随分と納得してくれる。そしてお客さんの見方、感じ方は直感的で正直で、いつも勉強になる。新しく入ってくる叢の従業員に対してもいつも質問する。植物のどこを見てどう感じているか、その鮮度は自分のそれよりも優れていることが多い。そうしたやり取りは僕をいつも起点に戻してくれる。

現在叢では自社生産を行なっているが、全国の愛好家たちやサボテン業者に生産依頼や調達依頼もかけている。業界内では価値の低いとされているサボテン品種の接ぎ木や、接ぎ木本来の機能性を無視した接ぎ木。これまで何十年もの間サボテンと付き合ってこられた諸先輩方が、引きつってしまいそうな素人的な依頼をかけさせてもらっている。それはサボテン生産を極めてこられた方々には幾分抵抗があるものだったかもしれないが、今では楽しんで協力してもらっている。

素人ならではの視点が新しい可能性の突破口であると信じ、園芸業界を超え、たくさんの人たちに植物のおもしろさを伝えていきたい。

農家に生産の委託をした接ぎ木のサボテン。植物を擬人化し、それぞれの風貌に合わせたタイトルを付けてイベントを行なった。

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この連載は、「月刊フローリスト」からの転載です。
最新話は、「月刊フローリスト」をご覧ください。

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著者

小田康平

1976年、広島生まれ。2012年、〝いい顔してる植物〟をコンセプトに、独自の美しさを提案する植物屋「叢-Qusamura」をオープン。国内外でインスタレーション作品の発表や展示会を行う。最新作は、銀座メゾンエルメス Window Display(2016)。http://qusamura.com

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