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叢のものさし 小田康平

第7回

器合わせの考え方と、アーティストの鉢

2018.08.29更新

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【 この連載は… 】 植物選びの基準は「いい顔」をしているかどうか……。植物屋「Qusamura(叢)」の小田康平さんが、サボテンや多肉植物を例に、独自の目線で植物の美しさを紹介します。植物の「いい顔」ってどういうことなのか、考えてみませんか?
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四角恩塚鸞鳳玉(しかくおんづからんぽうぎょく)
鉢 濱中史朗(はまなかしろう)

個性的な鉢は必要ない。その植物のよさを邪魔しない鉢を探し、合わせる。

鉢合せを褒められることがある。ある時は植物でなく、鉢だけを褒められることもある。それはそれで大変ありがたいことだが、実際のところ僕は鉢に興味、関心がない。今回は、叢がどのようにして鉢合せを行なっているか、どんなコンセプトで鉢を選んでいるか、またアーティストによる作品としての鉢をどのように考えているかを書こうと思う。

冒頭にも書いたが、僕は鉢に興味がない。100対0くらいで植物のことだけを考えている。植物の個性的ないい部分を見せようとすればするほど、鉢には無味無臭の存在であってほしいと願う。僕の意識は植物100対鉢0であったとしても、選びに選んだとっておきの植物を鉢に預けるわけだから、いくら興味がないとしても鉢の役割は必然的に高まってくる。ビジュアル的には半分くらいを鉢が占めているわけだから。

まず、鉢合せを行う時、鉢は存在感のない、主張のないものを選ぶ。形が奇抜だったり、マークが入っていたり、色がうるさかったりするものは基本的に選ばない。植物のよさよりも鉢のインパクトを売りにして販売することは、鉢屋さんがすればいい。案外、鉢を見渡してみると、上記のような主張のない鉢は探しにくい。だから、もしかしたら植物探し以上に鉢探しは難しい作業かもしれない。

子供の頃、買いたての新しいスニーカーを履いて出かけるのに躊躇したことがある。わざわざちょっと汚してみたり、乱暴に履いてみたり、靴がピカピカで浮いてしまうことが照れ臭かった。スニーカーが自分の体に馴染んでないのである。叢で少し古びた風な(本当に古びているものも扱うが、エイジング加工した大量生産ものも扱う)鉢を扱うそれと同じ感覚なのかもしれない。鉢が馴染むことで、風景となり植物が浮かび上がる。見せるべきは鉢植えトータルではなく、植物なのである。

植物は個性を大事にして、一品ものを扱うのに、鉢は大量生産品を使うんですね。鉢も一品ものを使えばいいのに。という声もいただくことがある。これも話は簡単で、存在を限りなく0にできるような鉢であれば、大量生産でも全く構わないと思っているし、むしろシンプルな主張のない鉢は大量生産の鉢に多いかもしれない。鉢に興味がないわけだから、個性的な鉢は必要ない。順序的には植物ありきで、その植物のよさを邪魔しない鉢を探し、合わせる。

考え方はこんな感じ。ある新しいピカピカの鉢があるとする。そこに植物のタネが落ちてきた。そのタネは時間をかけて緩やかに大きくなり、個性を纏(まと)い、ユニークな姿になった。それと同じだけの時間が鉢にもかかり、同じように経年変化し、ピカピカの鉢は少し古びた鉢になった。時間をともにした植物と鉢は馴染み、一体となる。そんなことを想像させる鉢植えが望ましいと思う。

はたまた、陶芸家や美術家などのアーティストが製作してくれた鉢に合わせる時は、考え方が全く変わる。その作品は誰がどのように製作したか、どのような思いが込められているか、じっくり眺め、植物を合わせていく。100対0や50対50というように区別して考えるのではなく、植物と鉢が融合し、一体となった作品を目指す。魂のこもった鉢に植物を合わせていくのはとても根気がいる。作家それぞれがさまざまな素材、色、形で作り上げた鉢は、こちらの想像を大きく超えることもある。一つの鉢に合わせるための植物を探しに日本中を巡って探したりすることもある。作家の生き様である鉢と、文字通り生き様そのものである植物を調和させたり、対比させること、そのさじ加減を自らの感性で行い、鉢合せする。できあがった鉢合せをアーティストに初めて見せた時、どのような反応をしてくれるのかは、とても楽しみなことでもある。

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この連載は、「月刊フローリスト」からの転載です。
最新話は、「月刊フローリスト」をご覧ください。

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著者

小田康平

1976年、広島生まれ。2012年、〝いい顔してる植物〟をコンセプトに、独自の美しさを提案する植物屋「叢-Qusamura」をオープン。国内外でインスタレーション作品の発表や展示会を行う。最新作は、銀座メゾンエルメス Window Display(2016)。http://qusamura.com

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