第9回
共有の方法
2018.10.11更新
【 この連載は… 】 植物選びの基準は「いい顔」をしているかどうか……。植物屋「Qusamura(叢)」の小田康平さんが、サボテンや多肉植物を例に、独自の目線で植物の美しさを紹介します。植物の「いい顔」ってどういうことなのか、考えてみませんか?
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オリジナルの照明具「Kekkai」に配した、ユーフォルビア ‘安曇野鉄甲’。
思いを受け入れてもらうためのアンテナをどう整えるか
僕の仕事は、大きく二つに分けることができる。植物の生産現場を巡り自らの価値観で植物を調達すること。もう一つは、そうして選んだ植物のすばらしさを人と共有することだ。今回は、見る側との「共有」について書いてみたい。伝えたい情報がどんなに特別だったり、多かったりしたとしても、それを見る側に受け入れてもらわないとはじまらない。共有は相手あってのことだからだ。植物を見てくれる人々に思いを共有してもらうためには、人々に植物を見るためのアンテナを立ててもらうことが重要だ。
色や形などの視覚的な部分はそれほど気を使わなくても理解してもらいやすいが、僕がどうしてその植物を気に入ったかを伝えるには、具体的な言葉による説明に加え、その植物をどのような舞台に置くか、いわゆる見せ方が大切になってくる。極端な例えだが、店先の床に植物を仕入れたままの状態で置いて販売するのと、きれいな台の上に置き、スポットライトを当てて展示してあるのとでは、当たり前だが、大きく伝わり方が異なってくる。見せる側がどのくらいその植物を大事に思っているか、注目すべきポイントがどこにあるかは、見る側のアンテナが高く立っていないと伝えることができない。だから、僕は植物を伝える時に、質のよい植物を選ぶことにとても気を使うが、ステージ作りにも長い時間を割く。モノとステージの両方の完成度が高かった時、初めて共感を得られることを知っているからだ。
叢では、これまでたくさんのアートギャラリーでサボテンを展示してきた。アートギャラリーとは、本来現代アートや、工芸などを展示し販売するところで、モノを集中して見ることができるよう、白い背景のところが多い。さまざまな旬のアーティストが、最新のアートとして作品を発表する一流の舞台のような場所だ。ふらっと立ち寄る人よりも、展示してある作品を見るためにわざわざ足を運ぶお客さんが多い。これまでそうした場所で、植物が展示されることは稀だった。
gallery feel art zeroで行った展示。
本来植物を展示しないような場所で植物を展示するとどうなるか。お客さんは、なぜここに植物? とアンテナを伸ばしはじめる。すると普段植物を眺めている目線で植物を見ずに、美術品や骨董品のようにまじまじと観察してくれるようになる。さらに言葉や文字があると、それらをしっかりと受け入れてくれる。そこで初めて僕の選んだ植物の「よさ」を共有してもらえる。「よさ」を理解してもらえたお客さんは、当然のことながら植物への愛着度合いが高くなる。結果、植物を大切に育ててもらえることにもつながってくるわけだ。
叢がオリジナルで製作している「Kekkai」という名の照明具がある。植物をよりよく見せるために、ネジ、配線、光源、木目など極限までなくしたシンプルな線の箱。視線を植物に向けてもらうために、空間を線で切り取る立体的な額縁を作り、強い照射により植物を浮き立たせている。使用しているLEDバーは光合成が可能なもので、角度や距離なども計算している。この照明具も小さなギャラリーのような役割をしてくれる。この中に植物を置くと、僕のこだわっている一点一点の植物の長所を枠と光で浮かび上がらせてくれる。思いを共有するということは、こちら側の本位でモノを押し付けるのではなく、見る側の受け入れ態勢をきちんと整えてあげることで初めて成立する。
familiar銀座本店で行った展示。
この連載は、「月刊フローリスト」からの転載です。
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