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「感情」の解剖図鑑 仕事もプライベートも充実させる、心の操り方 苫米地英人

第2回

「悲しみ」の解剖図鑑

2017.03.07更新

読了時間

【 この連載は… 】 悲しみ、怒り、喜び、名誉心……「感情」の成り立ち、脳内作用、操り方を苫米地博士が徹底解剖! 単行本出版を記念して、書籍の厳選コンテンツを特別公開いたします。
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【悲しみ】kanashimi


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「悲しみ」とは……


心が痛み、辛くて泣きたい状態。無力感、挫折感、失望感、脱力感などを伴い、「胸が締めつけられる」「表情がこわばる」「意欲や行動力、運動力が低下する」「自分の世界へひきこもる」「涙が出る」といった身体的反応が起こることが多い。

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■悲しみにおいて重要な役割を担うのは、前頭前野


 人はさまざまな形で悲しみを体験します。そしてそこには、抽象的な情報処理を行う前頭前野が大きく関わっています。

 もし目の前で肉親を亡くしたら、さほど前頭前野が発達していない犬や猫などの動物でも、悲しみを感じるでしょう。しかし、いま、目の前で起こっている出来事ではないこと、たとえば悲劇的な映画やドラマを観たり、過去の悲しい出来事を思い出したりすることで悲しみを感じるのは、人間だけです。また、病気で余命を宣告されたとき、「自分は病気である」「その病気は命に関わるものである」といったさまざまな情報を関連づけ、理解しなければ、悲しみは生じません。大事な相手から別れの言葉を告げられたときも、相手の言葉の意味を理解し、さらに相手の性格や態度や口調、状況などを考え合わせ、その言葉が相手の本心から出たものであることを確信しなければ、悲しみは生じないでしょう。


■現実を受け入れなければ、悲しみは生じない


 人が悲しむためには、まず、悲しみをもたらす情報を受け入れる必要があります。「大事な相手と別れる」「信頼していた相手に裏切られる」といった出来事に遭遇しても、その現実を本人が受け入れないかぎり、悲しみは生じません。この「情報の受容」のプロセスにも、主に前頭前野が関わっています。

 人の脳の前頭前野には、それぞれ「自分はこういう人間である」「自分はこういう世界に生きている」という信念=ブリーフシステム(自我、世界観、認識のパターンといってもいいかもしれません)が存在しており、悲しみの多くは、そのバランスが崩れることによって生じます。別離や裏切りなどにより、ブリーフシステムを形成する重要な部分が失われ、それを受け入れなければならない事態に陥ったとき、人は悲しみを感じるのです。


■悲しみのメカニズム


 目や耳などから何らかの情報が脳内に入ってきたり、人が脳内で過去の出来事やまだ起こっていない出来事をイメージしたりすると、海馬や扁桃体、視床、側坐核、島皮質、腹側被蓋野、そして前頭前野といった脳の各部位が連絡しあって、記憶や脳内の認識パターンと照らし合わせ、それがどのような情報であるかを評価します。

 その結果、「悲しみをもたらす情報である」との判断が下されると、報酬系の神経伝達物質であるドーパミンの分泌が抑えられたり、戦闘と逃避の準備をする内分泌物質であるノルアドレナリンが分泌されたりします。喜びが感じられなくなったり、食欲がなくなったり、といった身体的反応が表れるのは、このためです。


■悲しいとなぜ涙が出るのか


 悲しみを感じたときに分泌されるノルアドレナリンには、毒性があり、体内の活性酸素を増加させたり免疫を抑制したりします。そのため、人はあまり長時間ノルアドレナリンにさらされるわけにはいきません。

 一方、涙を流すと、ノルアドレナリンを抑え、精神の安定をもたらすセロトニンが分泌されます。悲しいときに涙を流すのは、ノルアドレナリンが過剰になることから身体を守るための防御システムだといえるかもしれません。


■悲しみをコントロールする方法


 ここでは、悲しみをコントロールする方法を3 つ、紹介しましょう。


1 悲しみをもたらす情報を、あらかじめ受け入れておく


 悲しみをもたらす情報を、あらかじめ「当たり前のこと」として受け入れておけば、そうでない場合に比べ、悲しみを感じる機会は少なくなり、悲しみは和らぐはずです。

 たとえば、悲しみの多くは、「大切な相手との別離」という情報によってもたらされます。しかし「この世に変わらないものはない」「あらゆる生物はいつか命を終える」ということを、最初から覚悟しておけば、いざその瞬間が訪れても、「仕方のないことだ」と冷静に受け止めることができるのではないでしょうか。


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2 徹底的に悲しむ


 人間の身体は、どんな神経伝達物質や内分泌物質が出ても、最終的には精神の安定をもたらすセロトニンが分泌されるようにできています。ですから、限界まで悲しめば、あとは気分を引き上げていくしかありません。人はどんな悲しみも、乗り越えることができるのです。

 人によって差はありますが、悲しみに浸っていられるのは、基本的には数日から数十日程度です。その間に、人は崩れたブリーフシステムのバランスを建て直します。たとえば大事な相手を失ったのであれば、その相手がいない状態を、新たなブリーフシステムとして受け入れるようになるのです。


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  • みんなの感想

    みっちゃん

    苫米地英人先生は日本の宝 だと思います。皆さんと一緒により一層大切にしたいですね。

    返信
著者

苫米地 英人

1959年、東京都生まれ。認知科学者、計算機科学者、カーネギーメロン大学博士(Ph.D)、カーネギーメロン大学CyLab兼任フェロー。マサチューセッツ大学コミュニケーション学部を経て上智大学外国語学部卒業後、三菱地所にて2年間勤務し、イェール大学大学院計算機科学科並びに人工知能研究所にフルブライト留学。その後、コンピュータ科学の世界最高峰として知られるカーネギーメロン大学大学院に転入。哲学科計算言語学研究所並びに計算機科学部に所属。計算言語学で博士を取得。徳島大学助教授、ジャストシステム基礎研究所所長、通商産業省情報処理振興審議会専門委員などを歴任。

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