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「感情」の解剖図鑑 仕事もプライベートも充実させる、心の操り方 苫米地英人

第9回

「緊張」の解剖図鑑

2018.01.16更新

読了時間

【 この連載は… 】 悲しみ、怒り、喜び、名誉心……「感情」の成り立ち、脳内作用、操り方を苫米地博士が徹底解剖! 単行本出版を記念して、書籍の厳選コンテンツを特別公開いたします。
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【緊張】kincho



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「緊張」とは……


不慣れな場や物事などに直面して心が張りつめた状態。身体がかたくなり、血管や筋肉の収縮、心拍数の上昇、発汗、食欲の低下、呼吸困難といった身体的反応が起こることが多い。

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■緊張の根底には「恐怖」「不安」がある


 試験や試合、面接、スピーチなどの際に緊張してしまい、息が上がったり、冷や汗をかいたり、あるいは頭が真っ白になったりして、うまくいかなかった。そんな経験のある人は多いでしょう。

 緊張は、心身がストレスを受けた結果生じるものです。緊張したときに動悸や呼吸が激しくなったり、汗をかいたり、胃腸の調子が乱れたりするのは、ストレスによって交感神経が優位になるためです。

 また、試験や試合などで緊張するとき、その根底には、「失敗したらどうしよう」「この試合に負けたら大変だ」といった気持ちがあります。

 そのため、恐怖や不安を覚えたときと同様、扁桃体が活性化して感情を増幅する一方で、前頭前野の働きが抑えられ、IQが低下します。

 このように、緊張は、論理的思考や冷静さが求められる場面では妨げとなりがちですが、生物にとって必要なものでもあります。

 たとえば、山道を歩いていて、前方からイノシシが突進してきたとき、つまり「ファイト・オア・フライト」の状態におかれたとき、人の身体には緊張が走ります。そして神経が過敏になり、特定の物事に対する集中力が高まります。緻密な思考を伴わない、瞬間的なパフォーマンスに関しては、緊張状態が良い効果をもたらすことも多いのです。


■アウェイで能力を発揮できなくなる理由


 スポーツの世界ではよく、「ホーム」「アウェイ」といった言葉が使われます。野球でもサッカーでも、ホームとアウェイでは、試合結果に差が生じがちですが、そこにも緊張の度合いが大きく関係しています。ホームなら、選手たちは緊張することなく、のびのびと試合をすることができますが、アウェイではIQが下がって身体もかたくなり、いつも通りのプレーをすることが難しくなってしまうのです。

 こうした、ホームとアウェイでのコンディションの差をなくすために用いられるのが、コーチング技術です。

 コーチングの世界では、「ホーム」のことを、「コンフォートゾーン」と呼んでいます。「コンフォートゾーン」というのは、人が「居心地が良い」と感じる領域のことです。

 人は、コンフォートゾーンではリラックスして行動したり、物事を冷静に判断したりすることができます。つまり、アウェイでもホームと同じように、リラックスして能力を発揮するためには、アウェイを自分にとってのコンフォートゾーンにしてしまえばいいのです。

 そしてこれはもちろん、スポーツだけでなく、試験や面接、スピーチなどにもあてはまります


■常に緊張がとれない現代人


 本来、人は長く緊張し続けることができません。ストレスを受けて緊張し、交感神経が優位になると、身体にさまざま負担がかかるからです。緊張状態を保っていられるのは、本来であれば、せいぜい数分から数時間程度でしょう。そして緊張の後には、必ず副交感神経が優位となり、リラックス状態が訪れます。

 ところが、交感神経から副交感神経への切り替えがうまくいかないと、緊張が長く続き、心身にさまざまな影響をもたらします。実は、現代人の多くがこうした状態にあり、その原因は、脳の進化と身体の進化とのギャップにあります。

 太古の昔と現代を比べると、人間の脳は大きく進化しましたが、身体は、脳ほどには進化していません。人間の脳が「当たり前」だと認識している環境と、身体が「当たり前」だと認識している環境に、大きなギャップがあるのです。

 たとえば、夜道を歩いていて、車にクラクションを鳴らされたとします。現代人の脳はそうしたことに慣れているため、大して驚きはしませんが、身体は、実はそのたびにドキッとしています。脳だけは環境の変化に適応できているため、身体が一日じゅうそうしたストレスを受け、緊張していることに気づいていないのです。

「ホーム」「アウェイ」でいくと、私たちの身体にとっては、21世紀の日本の環境はアウェイであり、放っておくと、身体の緊張はとれません。せめて夜、眠る前には、「入浴してゆっくりと身体を温め、リラックスする」「深呼吸をする」など、強制的に副交感神経を優位にするよう、心がけましょう。



■緊張をコントロールする方法

ここでは、アウェイをホームに変える方法を紹介しましょう。


 アウェイをコンフォートゾーンにするためには、とにかく「慣れる」ことが一番です。

 人の脳は、自宅や職場、通っている学校など、見慣れたものが多い環境をコンフォートゾーンと認識し、見慣れたものがない環境には恐怖や不安を覚える、つまりアウェイと認識する傾向があります。ですから、初めての場所やあまりなじみのない場所でも、「見慣れている」と感じることができれば、コンフォートゾーンにしてしまうことが可能です。

 そこで効果的なのが、イメージによる訓練です。

 初めての場所で試験を受けたり試合をしたりするときは、事前に会場を下見することをおすすめします。遠方で足を運ぶのが難しいようなら、インターネットなどで会場の写真を見てもいいでしょう。

 そして、リラックスして試験や試合などに臨んでいる自分の姿を、できるだけリアルにイメージしてください。「能力を発揮できて、喜んでいる自分」など、そのときのポジティブな感情もイメージすると、なお良いでしょう。

 場や状況に慣れるためには、もちろん同じ場所に何度も行き、同じような経験を積み重ねていくのが一番です。しかし、たとえ実際に行ったことや経験したことがなくても、リアルなイメージを頭の中に描くことができれば、脳はそれらを「見慣れた場所」「すでに経験したこと」として処理します。その結果、アウェイはホームとなり、心身がリラックスし、能力を十分に発揮することができるようになるはずです。



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著者

苫米地 英人

1959年、東京都生まれ。認知科学者、計算機科学者、カーネギーメロン大学博士(Ph.D)、カーネギーメロン大学CyLab兼任フェロー。マサチューセッツ大学コミュニケーション学部を経て上智大学外国語学部卒業後、三菱地所にて2年間勤務し、イェール大学大学院計算機科学科並びに人工知能研究所にフルブライト留学。その後、コンピュータ科学の世界最高峰として知られるカーネギーメロン大学大学院に転入。哲学科計算言語学研究所並びに計算機科学部に所属。計算言語学で博士を取得。徳島大学助教授、ジャストシステム基礎研究所所長、通商産業省情報処理振興審議会専門委員などを歴任。

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