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第8回

「不安」の解剖図鑑

2018.01.09更新

読了時間

【 この連載は… 】 悲しみ、怒り、喜び、名誉心……「感情」の成り立ち、脳内作用、操り方を苫米地博士が徹底解剖! 単行本出版を記念して、書籍の厳選コンテンツを特別公開いたします。

【不安】fuan



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「不安」とは……


自分や、自分が大切にしているものが何かに脅かされていると感じたり、「何か良くないことが起きるのではないか」と感じたりして、心が落ち着かない状態。「胸が苦しくなる」「表情がこわばる」といった身体的反応が起こることが多い。

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■本気で不安になれるのは人間だけ


 人が不安を抱くのは、「将来、恐怖を感じさせられるような出来事が起こるかもしれない」と予知したときです。悲しみや怒りは、過去の出来事から生じますが、不安は、「人が想像した未来」から生じます

 また恐怖は、基本的には「すぐ間近に迫った脅威」に対して抱くものですが、不安は最低でも数時間、長ければ数年後に訪れると予測される脅威に対して抱きます。

 つまり、不安を抱くためには、時間と空間を超えた推論や予測をすることが必要不可欠であり、それは前頭前野が発達した人間だからこそできることです。本気で不安になれるのは、人間だけなのです。


■不安には、ブリーフシステムが関わっている


 不安には、ブリーフシステムが大きく関わっています。

 前頭前野は、「Aという事柄が起きれば、Bという事柄が起こる」といった、さまざまな因果関係のパターンを認識しています。それがブリーフシステムであり、その人の自我や世界観を形成する基礎となっています。

 人間が何かを体験したり思考したりして、脳に何らかの情報が入ってくると、脳はそれを、ブリーフシステムと照らし合わせ、評価します。その結果、「この情報が入ってきたということは、将来自分にとって、このような恐怖体験が起きる可能性がある」という推論が導き出されると、脳は不安を感じるようになるのです。


■楽しんでもいい不安もある


 不安にはさまざまなものがありますが、その中には、「感じてもいい不安」と「感じる必要のない不安」があります。

「感じてもいい不安」として、まず挙げられるのは、「老い」や「死」に対する不安です。

 人類はあるとき、「人は必ず老いる」「人は必ず死ぬ」「それらを人間の力でコントロールすることはできない」ということに気づきました。おそらくそのときから、老いや死に対する不安が生まれたはずです。

 そうした不安に対処するために生まれたのが、宗教や哲学です。

 生きている限り、自分ではどうすることもできないことは必ずあり、不安も生じます。そして不安があるからこそ、人は人生と向き合い、思考を深めることができます。

 ですから、「老い」や「死」への不安のように、感じてもいい不安に関しては、「自分が不安を抱いている」ことをしっかり認め、無理になくそうとせず、その感情を楽しめばよいのです。


■感じる必要のない不安を解消する方法

ここでは、感じる必要のない不安を解消する方法を4つ、紹介しましょう。


1 リスクを詳細に把握する


 感じる必要のない不安としては、まず「なにかトラブルが起きたらどうしよう」「納期に間に合わなかったらどうしよう」といった、仕事上での不安などが挙げられます。

 人がこうした不安を抱くのは、単に、未来を正確に予測できていないから、あるいは予測したような未来を避けるための対処が、きちんとできていないからです。

 予測できる出来事やリスクに対し、なにもせずにいれば、不安は解消されません。自分が置かれている状況や、将来起こりうる出来事、発生しうるリスクなどをしっかり把握し、適切に対処すれば、「漠然と不安を感じる」ことは少なくなります。



2 ブリーフシステムを変える


 感じる必要のない不安には、ほかに、「誤ったブリーフシステムに基づく不安」もあります。

 たとえば、会社を辞めてミュージシャンになろうと考えた人が、「ミュージシャンでは食べていけない」と親や上司に言われ、不安になってしまった場合。実際には、ミュージシャンで身を立てている人もたくさんいるにもかかわらず、親や上司の言葉、漠然とした世間のイメージなどによって、「ミュージシャン=食べていけない」という誤ったブリーフシステムが出来上がり、脳がそれに基づいて「将来、危機的な状況が起きるかもしれない」と判断。その結果、不安が生じてしまうわけです。

 こうした不安を解消するためには、ブリーフシステム自体を変える必要があります。正確な情報を集め、「ミュージシャンになったら、本当に食べていけないのか」「ミュージシャンで食べていくにはどうしたらいいか」を、前頭前野を働かせ、さまざまな角度から徹底的に考えるのです。その結果「ミュージシャン=食べていけない」というブリーフシステムを変えることができれば、それに基づく不安も生じなくなります。


3 臨場感空間から抜け出す


 あまりにも不安が強すぎると、それはときに「恐怖」に変わります。不安を生じさせているのは、あくまでも「将来、恐怖を感じさせられるような出来事が起こるかもしれない」という予知にすぎないのに、まるでそうした出来事がすぐに、あるいは確実に起こるかのように脳が錯覚し、恐怖回路を発火させてしまうのです。そうなると、大脳辺縁系が活性化し、前頭前野の働きが弱まるため、思考や論理によってブリーフシステムを変え、不安を処理するのは難しくなります。

 たとえば、ある企業の社長が「月末に、500万円の手形を落とせないかもしれない」という不安にさいなまれたとき。その不安が恐怖に変わると、前頭前野の働きが抑えられて冷静な判断ができなくなり、「500万円の手形が落とせなかったら、不渡りを出し、銀行との取引が停止になり、会社がつぶれ、すべての社員と自分の一家が路頭に迷ってしまうかもしれない」と、恐怖の感情ばかりがどんどん増幅されることになります。

 こうした場合は、とにかく、「臨場感空間」(いま、その人が臨場感を感じている世界)から抜け出す必要があります。何日間か海外に脱出してもいいし、時間がなければ、1泊2日で温泉旅行に行ってもいいでしょう。

 一度臨場感空間から抜け出せば、恐怖回路の発火がおさまり、恐怖を増幅させていた大脳辺縁系の働きが弱まって、前頭前野が活性化するようになります。それによって、新たな解決策が見つかったり、お金を貸してくれそうなあてを思い出したりするかもしれません。「何かしていないと落ち着かないから」と、毎日金策に駆けずり回っていては、臨場感空間を抜け出せず、恐怖ばかりがどんどん増幅してしまいます。


4 前頭前野を再活性化させる第三者視点


 強い不安や恐怖は大脳辺縁系を活性化させ、前頭前野の働きを抑えるため、IQが下がって、冷静な判断を下すことが難しくなります。つまり、不安や恐怖をコントロールできないと、人は決断を誤りやすくなるといえるでしょう。

 そして、一度下がってしまったIQを自力で回復させるのは、非常に困難です。「毎日必ず内省の時間を作り、自分を完全に客観的に見つめる」といったトレーニングを積んでいる人でなければ、ほぼ不可能だといえるでしょう。

 ですから、何らかの問題を抱え、不安や恐怖に襲われたときは、自分一人で解決しようとは思わないでください。プロのコーチや、まったく利害関係のない第三者にアドバイスを求めるのが理想的です。彼らはきっと、何が本当に問題なのかを整理し、「いったん現場(臨場感空間)を離れた方がいい」といったアドバイスをし、前頭前野が再び活性化する手助けをしてくれるはずです。

 なお、肉親にアドバイスを求めるのは避けた方がいいでしょう。たとえ利害関係がなかったとしても、肉親の場合は親身になりすぎて、同じ臨場感空間に入りこんでしまい、冷静な判断ができなくなりがちだからです。



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著者

苫米地 英人

1959年、東京都生まれ。認知科学者、計算機科学者、カーネギーメロン大学博士(Ph.D)、カーネギーメロン大学CyLab兼任フェロー。マサチューセッツ大学コミュニケーション学部を経て上智大学外国語学部卒業後、三菱地所にて2年間勤務し、イェール大学大学院計算機科学科並びに人工知能研究所にフルブライト留学。その後、コンピュータ科学の世界最高峰として知られるカーネギーメロン大学大学院に転入。哲学科計算言語学研究所並びに計算機科学部に所属。計算言語学で博士を取得。徳島大学助教授、ジャストシステム基礎研究所所長、通商産業省情報処理振興審議会専門委員などを歴任。

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