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「感情」の解剖図鑑 仕事もプライベートも充実させる、心の操り方 苫米地英人

第12回

「寂しさ」の解剖図鑑

2018.02.06更新

読了時間

【 この連載は… 】 悲しみ、怒り、喜び、名誉心……「感情」の成り立ち、脳内作用、操り方を苫米地博士が徹底解剖! 単行本出版を記念して、書籍の厳選コンテンツを特別公開いたします。
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【寂しさ】sabishisa



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「寂しさ」とは……


あるはずのものや、あってほしいものが欠けていて、心細く満たされない気持ち。あるいは、人恋しくて物悲しい気持ち。寂しさの度合いによっては、「胸が締めつけられる」「涙が出る」といった身体的反応が起こることもある。

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■寂しさには、いろいろな種類がある


「寂しさ」と一口に言っても、ひとくくりにはできません。その内容は千差万別です。

「大切な人を失って、寂しい」「住み慣れた場所を離れて、寂しい」「恋人や家族がいなくて、寂しい」という人もいれば、「人は、究極的には誰ともわかりあえない、孤独な存在である。そう考えると寂しい」「ビッグバンの前の、何もない宇宙を想像すると寂しい」という人もいるかもしれません。

 抽象度の低いものから高いものまで、人はさまざまな物事に対し、寂しさを感じるのです。


■動物の本能から生じる、抽象度の低い寂しさ


 抽象度の低い寂しさは、動物の本能に基づく寂しさであるといってもよいかもしれません。

 動物にはもともと、身の安全を守るために群れをなす習性があります。

 進化の結果、人間は一人でも行動できるようになりましたが、脳内には、仲間を求める仕組みがまだ残っています。集団で行動していた時代の名残が、生物としての人間の脳に残っているのです。たとえば、一人暮らしの人が寂しさを感じてしまうのは、そのせいです。

 しかし、そうした寂しさには、実は、あまり意味はありません。

 よく考えてみてください。山奥や無人島などの特殊な環境でない限り、たとえ家族などの同居人がいなくて一人で暮らしていても、単に壁で区切られているだけで、同じマンションや近所には、たくさん人間がいます。物理的には数メートルしか離れていないなどということも、ざらにあるでしょう。

 こうした寂しさを感じそうになったら、「壁の向こうには人がいる」と考えるようにしましょう。

 生物学的な、抽象度の低い寂しさには、想像力を少し働かせるだけで充分に対処ができるのです。


■ホメオスタシスがもたらす寂しさもある


 大切な人を失ったり、住み慣れた場所を離れたりしたときに感じるのは、ホメオスタシスの働きによって生じる寂しさです。

 人間の身体や精神には、自分にとって居心地のいい状態、慣れ親しんだ状態を維持しようとする力(ホメオスタシス)が強く働いています。そして、何らかの事情により、「自分はこういう人間である」「自分はこういう世界に生きている」という脳内のブリーフシステムが崩れると、最初のうち、脳は戸惑い、それを何とか元に戻そうと葛藤します。

 このときに、寂しさが生まれるのです。



■寂しさをコントロールする方法

ここでは、寂しさをコントロールする方法を2つ、紹介しましょう。


1 想像力と思考力をフルに駆使する

 寂しさを早く乗り越えたいときは、想像力や思考力を駆使しましょう。大切な人が目の前からいなくなって寂しさを感じたなら、「ほかの町で元気に暮らしている、その人の姿」を想像すればいいし、住み慣れた場所を離れて寂しさを感じたなら、「新しい場所で楽しく暮らすこと」をゴールに設定し、それを達成するための方法を考えるのです。

 いずれにせよ、ある程度時間が経ち、脳が「もう、ブリーフシステムは元の状態には戻らない」と認識し、現状を踏まえた新たなブリーフシステムを受け入れるようになると、寂しさは徐々に治まっていきます。


2 寂しさは、人の心が生み出す幻の感情ということに気づく

 人間の根源的な孤独に思いをはせたり、宇宙の成り立ちに思いをはせたりしたときに生じる、時間空間を超えた、抽象度の高い寂しさはどうでしょう。

 これらは、想像しすぎ、考えすぎから生まれていますから、当然のことながら、想像するのをやめれば、寂しさは治まります。何事も、ほどほどが一番なのです。

 寂しさを感じることは決して悪いことではありません。しかしあくまでも、その感情を楽しむことができる程度であれば、です。

 寂しいという感情にとらわれすぎてはいけません。抽象度の低いものであれ、高いものであれ、寂しさはすべて、自分の想像力の欠如もしくは過剰さが生み出した、幻の感情にすぎないのです。それに気づくだけでも、だいぶ心持ちは変わってくるはずです。



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著者

苫米地 英人

1959年、東京都生まれ。認知科学者、計算機科学者、カーネギーメロン大学博士(Ph.D)、カーネギーメロン大学CyLab兼任フェロー。マサチューセッツ大学コミュニケーション学部を経て上智大学外国語学部卒業後、三菱地所にて2年間勤務し、イェール大学大学院計算機科学科並びに人工知能研究所にフルブライト留学。その後、コンピュータ科学の世界最高峰として知られるカーネギーメロン大学大学院に転入。哲学科計算言語学研究所並びに計算機科学部に所属。計算言語学で博士を取得。徳島大学助教授、ジャストシステム基礎研究所所長、通商産業省情報処理振興審議会専門委員などを歴任。

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