第3回
「怒り」の解剖図鑑
2017.03.14更新
【 この連載は… 】 悲しみ、怒り、喜び、名誉心……「感情」の成り立ち、脳内作用、操り方を苫米地博士が徹底解剖! 単行本出版を記念して、書籍の厳選コンテンツを特別公開いたします。
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【怒り】ikari
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「怒り」とは……
自分が物理的・精神的・社会的に攻撃されたと感じ、冷静さを失っている状態。「眉間にしわが寄る」「目がつりあがる」「口角が下がる」など表情の変化を伴い、「血圧が上がる」「動悸が激しくなる」「震える」といった身体的反応が起こることが多い。
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■怒りの原因には、複雑なものが多い
人が怒りを覚える原因には、「誰かにいきなり殴られる」といった単純なものもありますが、たいていはもっと複雑です。たとえば、「利害の一致する仲間や、信用していた人から裏切られて怒る」という場合、「その人と利害が一致する(その人が信用に値する)と判断する」「その人に裏切られたと判断する」「その裏切りによって、自分が害をこうむったと判断する」といった、高度な情報処理の積み重ねがあって、初めて人は怒りを覚えます。
なお、人間は仲間に裏切られたとき、敵に攻撃されたときよりも大きな心理的ショックを受けます。それは「その人は仲間であり、裏切るはずがない」というブリーフシステムに反する、「ありえないと思っていた」出来事だからです。
■現代の日本社会に、怒りの居場所はない
それぞれの感情に対する世の中の評価は、時代によって変わります。しかし、少なくとも現代の日本社会においては、怒りはほぼ役割を失っており、重要度が低い感情であるといえるでしょう。
たとえばビジネスの場面では、あなたの仕事に対し評価を下すのは上司や取引先です。評価が不当だと感じられれば怒りが生まれますが、だからといって、そうした相手に怒りをぶつけるわけにはいきません。企業社会には基本的に、怒りの居場所はないのです。
それ以外の場所でも、怒ってばかりいる人は「変わった人」「困った人」と判断されてしまいがちです。現代の日本社会で怒ることが許されるのは、せいぜい家庭の中だけといえるかもしれません。
そのため、この社会に生きる私たちには、怒りの感情をコントロールすることが求められます。
■怒りのメカニズム
「自分が何らかの攻撃を受けた」と脳が判断すると、怒りが生まれます。怒りの感情はたいてい、大脳辺縁系の扁桃体によって増幅され、その情報が視床下部に伝わると、ノルアドレナリンが分泌され、交感神経が活性化し、血圧の上昇、心拍数の増加、気分の高揚などが起こります。寝る前に、その日にあった腹の立つ出来事を思いだすと、頭に血がのぼって眠れなくなったりするのは、そのためです。一方、怒りによって大脳辺縁系が活性化すると、前頭前野の働きが抑えられ、IQが下がって、冷静な思考ができなくなります。
しかし、人は長く怒り続けることができません。あらゆる情動の後には、必ずセロトニンが分泌されます。どんなに激しく怒っても、いつかはリラックス状態が訪れるのです。
■悲しみと怒りは紙一重
同じ出来事が、悲しみを生むこともあれば、怒りを生むこともあります。
たとえば、仕事で企画のプレゼンを行い、予想よりも低い評価を受けたとき。その評価が「正当なものだ」と感じられれば悲しみが生まれ、不当だと感じられれば怒りが生まれます。前頭前野が、その出来事をどうとらえるかによって、発生する感情が違ってくるのです。
■怒りをコントロールする方法
ここでは、怒りをコントロールする方法を2つ、紹介しましょう。
1 怒り自体を起こりにくくする
怒りの原因となるような出来事が発生したときには、目を閉じて瞑想をしたり、深呼吸をしたりしましょう。そうすることで、副交感神経が活性化し、身体がリラックス状態になってセロトニンが分泌されやすくなり、怒りの感情が起こったり増幅したりするのを抑えることができます。
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