第13回
「安心」の解剖図鑑
2018.02.13更新
【 この連載は… 】 悲しみ、怒り、喜び、名誉心……「感情」の成り立ち、脳内作用、操り方を苫米地博士が徹底解剖! 単行本出版を記念して、書籍の厳選コンテンツを特別公開いたします。
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【安心】anshin
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「安心」とは……
心配ごとや不安がなく、心が安らかな状態。不安や恐怖と対極にあり、人間を興奮状態にする脳内物質も分泌されていない、平穏な心持ち。
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■生物にとって、安心はとても大事な情報
「安心感を抱く」こと。それはつまり、「不安や恐怖などを感じない」ことでもあります。安心感を抱いているとき、アドレナリンやノルアドレナリンなどはほとんど分泌されていないはずです。
「自分がいる場所に安心感を抱ける」「一緒にいる相手に安心感を抱ける」という情報は、自分の身や種を守らなければならない生物にとって、非常に重要です。
■人間の安心感は、高度に情報化されている
「何によって安心感を得るか」は、人間と、それ以外の動物で、やや異なります。
人間以外の動物は、「目の前にいる相手が、自分に害を及ぼす存在となりえないこと」「巣をつくろうとしている場所の周辺に、敵や危険なものが存在しないこと」など、物理的な条件が満たされることによって、安心感を得ます。
これに対し、前頭前野が発達した人間が抱く安心感は、高度に情報化されています。
もちろん、「自分や家族の心身に対し、危険が及ぶリスクが低いときに安心感を抱く」という基本は変わりません。
しかし人間の場合、「自分や家族の身を守る腕力がある」「丈夫で堅固な家に住んでいる」といった物理空間での安心感よりも、「どんなトラブルが起きても解決してくれる、優秀な弁護士を雇っている」「耐震構造やセキュリティがしっかりしている、高級マンションに住んでいる」といった情報空間での安心感を、より重視する傾向にあります。
ただ、いくらマンション自体に耐震性があっても、地震によって液状化する土地に建っていては意味がありませんし、優秀な弁護士が、必ず訴訟に勝ってくれるという保証もありません。したがって、仮に安心感を得たとしても、それがまやかしである可能性は十分にあるといえます。
■似ているようでまったく違う、「安心」と「リラックス」
「安心している」状態と、「リラックスしている」状態は、似ているようで、実は異なります。
安心というのは、基本的には心の状態を指す言葉です。そしてリラックスというのは、副交感神経が優位になっている、身体の状態を指します。たとえ何らかの不安を抱えていても、お風呂に浸かったり、ゆったりした音楽を聴いたりすることで、身体をリラックスさせることは可能ですし、逆に安心感を抱きながら、一時的に緊張する、つまり交感神経が優位になることもあります。「自宅の台所で料理をしているとき、その場所に対しては安心感を抱いてはいるけれど、揚げ物をする一瞬だけ緊張する」という人は少なくないでしょう。
このように、日常用語の中には、定義があいまいなまま使われている言葉が、実はたくさんあるのです。
■安心という感情の心理的側面
人は、想定しうるリスクの2倍の保障がなければ、安心できない
物理空間における不安と違い、情報空間における不安には実体がなく、漠然としていて、際限がありません。
たとえば現代の日本には、餓死する人はほとんどいません。たとえ貧しくても、公的な制度を利用できれば、飢え死にはしないはずです。それでも人々が、より多くのお金を稼ごうと一生懸命働くのは、安心感がほしいからです。
一説によると、人は、想定しうるリスクの2倍の保障がなければ、安心できないそうです。つまり、生活面での安心を得ようと思ったら、生涯にかかると考えられる生活費の倍のお金が必要となります。
それでも安心できなかったら
しかしたとえそれだけのお金が手に入ったとしても、つい「想定以上に長生きするかもしれない」「インフレが起こるかもしれない」と考えてしまい、安心できない人もいるでしょう。
こうした不安を抱え、なかなか安心感が得られないという人は、ぜひ「不安」の項目を読んでみてください。不安な気持ちを解消する方法を紹介しています。
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