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「感情」の解剖図鑑 仕事もプライベートも充実させる、心の操り方 苫米地英人

第15回

「憧憬」の解剖図鑑

2018.02.27更新

読了時間

【 この連載は… 】 悲しみ、怒り、喜び、名誉心……「感情」の成り立ち、脳内作用、操り方を苫米地博士が徹底解剖! 単行本出版を記念して、書籍の厳選コンテンツを特別公開いたします。
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【憧憬】shokei / dokei



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「憧憬」とは……


理想とする物事や人物に強く心を惹かれ、思い焦がれたり、志したりすること。あこがれ。

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■子どもが「憧れる」対象は幅広い


 どのような対象に「憧憬」という感情を抱くかは、子どもと大人で大きく異なります。

 子どもは、さまざまな対象に幅広く憧れます。「すごい」「かっこいい」と思った象徴的な人物や物事であれば、何に対しても憧れを持ちます。親や同級生、部活の先輩、先生といった、身近な人に憧れることもあれば、国内外の大スターやアメリカの大統領、アニメのキャラクターや戦隊ヒーローなどに憧れることもあるでしょう。人物以外であれば、たとえば宇宙旅行やタイムトラベルなんかに憧れたりすることもあるかもしれません。

 子どものうちは、自分の能力や適性と社会の現実を考え合わせて、「自分の理想の姿」を冷静に思い描くことは、ほとんどありません。そのため、現実的に達成可能かどうかを考慮せず、幅広い事柄に対して、憧憬を抱くのです。大人は達成可能な事柄だけに憧れる


■大人は達成可能な事柄だけに憧れる


 逆に、大人にとって憧れの対象となるのは、会社の先輩や上司、メディアなどで取り上げられている優秀な経営者、あるいはせいぜい、立志伝中の人物などでしょう。頑張れば手に入りそうなものやライフスタイルに、憧れを抱く人もいるかもしれません。

 歳をとり、経験や知識が増えてくると、人はどうしても、「現実社会の中で、自分にはどれだけのことが達成可能か」を考えるようになります。そして、そのときの自分にとって達成可能な事柄のうち、ベストなものに憧れるようになるのです。大人が、アメリカの大統領やアニメのキャラクターなど、自分に「なれる」可能性がないものに本気で憧れることは、基本的にはありません。

 もしもそういったものに憧れの感情を抱いたとしたならば、それは、心のどこかで「なれる」と思っているのでしょう。


■憧憬と嫉妬は裏表の感情


 実は、大人の憧憬のあり方は、「嫉妬」と似ています。

 大人にとっては、憧憬も嫉妬も、「自分よりも恵まれている」「自分よりも優れている」と感じ、かつ「自分にも手が届く」「自分にもなれる」と思っている相手にしか抱かない感情だからです。

 もちろん中には、到底手の届きそうにない人、たとえば社会的に成功をおさめている人や、メディアにとりあげられている有名人に対し、「あの程度の才能で成功するなんて許せない」「あの程度のルックスでちやほやされるなんて許せない」と嫉妬の念を抱く人もいます。しかしその根底には、「もしかしたら自分も、彼らのようになれたかもしれないのに」という思い込みがあるのです。

 嫉妬はまさに、憧憬の裏返しの感情であるといえるでしょう。


■憧憬という感情との付き合い方

ここでは、憧憬という感情との付き合い方を2つ、紹介しましょう。


 1.憧れをゴール設定に有効に使う

 人物であれライフスタイルであれ、何かに対して憧れを持つことは、自分の理想のゴールを具体的に設定するうえでも、非常に有効です。

 しかし、それが嫉妬の感情に変わると、前向きな行動を阻害してしまうため、前頭前野を働かせ、ゴール設定を見直す必要があります。詳しくは「嫉妬」の項を参照してみてください。



 2.「憧れの人のようになりたい」と思ってはいけない

 ゴールは常に「現状の外」に設定するのが基本です。憧れの感情は、先輩や上司といった「現状の内側」の人ではなく、まったく畑違いの人や、それこそ現段階では「手が届かない」と思っている人など、外側の人に抱くようにしましょう。

 また、ゴールを設定する際に、「あの人のようになりたい」などと考えてはいけません。それは、本当の意味で、自分自身のゴールにはなりえないからです。

 人はみな異なる人格を持っており、どんなに頑張っても、完全に「その人」になることはできません。「あの人のようになりたい」と必死で頑張っても、結局は憧れの相手の劣化版コピーにしかなれないのです。それでは、永遠に「自分はあの人にはかなわない」という思いを抱き続けることになり、結局、自己評価を下げてしまいます。

 もし憧れる人がいるなら、ぜひ「その人を超えること」を目指し、自分だけのゴールを設定してください。



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著者

苫米地 英人

1959年、東京都生まれ。認知科学者、計算機科学者、カーネギーメロン大学博士(Ph.D)、カーネギーメロン大学CyLab兼任フェロー。マサチューセッツ大学コミュニケーション学部を経て上智大学外国語学部卒業後、三菱地所にて2年間勤務し、イェール大学大学院計算機科学科並びに人工知能研究所にフルブライト留学。その後、コンピュータ科学の世界最高峰として知られるカーネギーメロン大学大学院に転入。哲学科計算言語学研究所並びに計算機科学部に所属。計算言語学で博士を取得。徳島大学助教授、ジャストシステム基礎研究所所長、通商産業省情報処理振興審議会専門委員などを歴任。

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