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第110回

268〜270話

2021.08.30更新

読了時間

  「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、孟子の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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1‐4 そのときのよろしきに従う(孔子の生き方)


【現代語訳】
〈前項から続いて孟子は言った〉。「孔子が斉の国を去るときは、炊くために水につけてあった米を手ですくい上げて急いで出発した。しかし、魯の国(生まれた国)を去るときは、『遅々として、足どり重く私は行く』と言われた。これは父母の国を去る場合の道である。このように早く去るべき場合には早く去り、久しくおるべき場合には久しくいて、引きこもっていたほうが良い場合には引きこもり、仕えるべき場合には、仕えるというように、そのときのよろしきに従うのが孔子である。

【読み下し文】
孔子(こうし)の斉(せい)を去(さ)るや、淅(せき)(※)を接(せっ)して(※)行(ゆ)く。魯(ろ)を去(さ)るや、曰(いわ)く、遅遅(ちち)として吾(わ)れ行(ゆ)く、と。父母(ふぼ)の国(くに)を去(さ)るの道(みち)なり。以(もっ)て速(すみ)やかなるべくんば速(すみ)やかに、以(もっ)て久(ひさ)しかるべくんば久(ひさ)しうし、以(もっ)て処(お)るべくんば処(お)り、以(もっ)て仕(つか)うべくんば仕(つか)うるは、孔子(こうし)なり。

(※)淅……水に漬けた米。
(※)接して……手ですくい上げて。

【原文】
孔子之去齊、接淅而行、去魯、曰、遲遲吾行也、去父母國之道也、可以速而速、可以久而久、可以處而處、可以仕而仕、孔子也。

 

1‐5 集大成


【現代語訳】
〈前項から続いて〉。孟子は言った。「伯夷は、聖人のなかでも、特に清廉潔白な人である。伊尹は、聖人のなかでも、特に責任感の強い人である。柳下恵は、聖人のなかでも、特に誰とでも調和していこうとする心が強い人である。(伯夷、伊尹、柳下恵の長所を併せ持つ)孔子は聖人のなかでも偏ることがなく、そのときのよろしきに従って正しく生きる人である。ゆえに孔子を、すべての徳を集めて大成した聖人というのである」。

【読み下し文】
孟子(もうし)曰(いわ)く、伯(はく)夷(い)は聖(せい)の清(せい)なる者(もの)なり。伊尹(いいん)は聖(せい)の任(にん)なる者(もの)なり。柳下(りゅうか)恵(けい)は聖(せい)の和(わ)なる者(もの)なり。孔子(こうし)は聖(せい)の時(とき)なる者(もの)なり。孔子(こうし)を之(これ)集(あつ)めて大(たい)成(せい)す(※)と謂(い)う。

(※)集めて大成す……すべての徳を集めて大成した人。現在でもよく使われる「集大成」の語源とされる。通常、意味は「①多くのものを体系的に集めて、一つに取りまとめること。またそのもの。集成、②長年の努力、活動を結実させたもの」(『大辞林』三省堂)などとされる。

【原文】
孟子曰、伯夷聖之淸者也、伊尹聖之任者也、柳下惠聖之和者也、孔子聖之時者也、孔子之謂集大成。

 

1‐6 孔子は力と技巧の両方を兼ね備えている


【現代語訳】
〈前項から続いて孟子は言った〉。「集めて大成するとは(どういうことかというと)、音楽を奏するときに、まず鐘を鳴らして始め、終わりに玉磬(ぎょくけい)を打って締めくくりをすることである。初めに鐘を鳴らすのは、調和が乱れないように演奏を始めるためである(鐘を合図として始まり、その後に笛や太鼓などの八音が合奏される)。終わりに玉磬を打つのは、乱れずに続いてきた演奏をまとめて終わらせるためである。乱れのない合奏を始めるのは智の技巧であり、乱れずに見事に合奏を終わらせるのは聖(徳)の力である。これを弓術にたとえると、智は弓を射る技巧であり、聖は弓を射る力である。ちょうど百歩離れて弓を射る場合のようなものである。矢が的まで届くのは射る人の力によるものである。矢が的に当たるのは射る人の力でなく、技巧によるものなのである(孔子はこの力と技巧の両方を兼ね備えている、つまり集大成の人なのである)」。

【読み下し文】
集(あつ)めて大(たい)成(せい)すとは、金声(きんせい)(※)して玉(ぎょく)之(これ)を振(しん)する(※)なり。金声(きんせい)すとは、条理(じょうり)(※)を始(はじ)むるなり。玉之(ぎょくこれ)を振(しん)すとは、条理(じょうり)を終(お)うるなり。条理(じょうり)を始(はじ)むるは、智(ち)の事(こと)なり。条理(じょうり)を終(お)うるは、聖(せい)の事(こと)なり。智(ち)は譬(たと)えば則(すなわ)ち巧(こう)なり。聖(せい)は譬(たと)えば則(すなわ)ち力(ちから)なり。由(な)お百歩(ひゃっぽ)の外(そと)に射(い)るがごとし。其(そ)の至(いた)るは爾(なんじ)の力(ちから)なり。其(そ)の中(あた)るは爾(なんじ)の力(ちから)に非(あら)ざるなり。

(※)金声……鐘を鳴らす。
(※)玉之を振する……玉磬を打つ。「玉」は磬の類のこと。
(※)条理……ここでは調和が乱れず続くこと。

【原文】
集大成也者、金聲而玉振之也、金聲也者、始條理也、玉振之也者、終條理也、始條理者、智之事也、終條理者、聖之事也、智譬則功也、聖譬則力也、由射於百步之外也、其至爾力也、其中非爾力也。


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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 菜根譚コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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