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第13回

31〜32話

2021.04.07更新

読了時間

  「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、孟子の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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7‐12 民の生活、安定が政治の根本である


【現代語訳】
〈前項から続いて〉。「以上のようなわけですから、昔の明君たちは、民の生活がうまく成り立つようにと政策を施していったのです。必ず上を見ては父母に十分尽くすことができ、下を見ては妻子を十分養えるようにし、豊作の年は長く飽きるほどの食べ物があり、凶作の年でも飢えて死ぬことはないようにさせたのです。こうした後に、道に関する教育を施していたので、民もこれに喜んでついていったのです。しかし、今の諸侯のやり方は、民の生活が成り立つための政策を施すことがなく、したがって民は上を見ると父母に尽くすこともできず、下を見ても妻子を養うことができない状態です。豊作の年であっても長く苦しむし、凶作の年には死を免れることができません。だから民は、ひたすら死なないようにと努力するけれども、その力が足りないことを心配しています。このような状況でどうして礼儀などを学び治める余裕なんてございましょうか。王が仁政を行い、天下の王者になろうとお望みなら、どうして、その根本に立ち返らないのでしょうか(仁政の根本たる民の生活安定させる政策を始めないのでしょうか)」。

【読み下し文】
是(こ)の故(ゆえ)に明君(めいくん)民(たみ)の産(さん)を制(せい)する(※)。必(かなら)ず仰(あお)いでは以(もっ)て父母(ふぼ)に事(つか)うるに足(た)り、俯(ふ)しては以(もっ)て妻子(さいし)を畜(やしな)うに足(た)り、楽歳(らくさい)(※)には終身(しゅうしん)飽(あ)き(※)、凶年(きょうねん)には死亡(しぼう)を免(まぬが)れしむ。然(しか)る後(のち)駆(か)りて善(ぜん)に之(ゆ)かしむ。故(ゆえ)に民(たみ)の之(これ)に従(したが)うや軽(かる)し。今(いま)や民(たみ)の産(さん)を制(せい)して、仰(あお)いでは以(もっ)て父母(ふぼ)に事(つか)うるに足(た)らず、俯(ふ)しては以(もっ)て妻(さい)子(し)を畜(やしな)うに足(た)らず、楽(らく)歳(さい)には終身(しゅうしん)苦(くる)しみ、凶年(きょうねん)には死亡(しぼう)を免(まぬが)れず。此(こ)れ惟(ただ)死(し)を救(すく)うて而(しか)も贍(た)らざるを恐(おそ)る。奚(なん)ぞ礼(れい)義(ぎ)を治(おさ)むるに暇(いとま)あらんや。王(おう)之(これ)を行(おこな)わんと欲(ほっ)せば、則(すなわ)ち蓋(なん)ぞ其(そ)の本(もと)に反(かえ)らざる。

(※)民の産を制する……民の生活がうまく成り立つように政策を施す。
(※)楽歳……豊作の年。
(※)終身飽き……長く飽きるほどの。「終身」だから一生涯飽きるほどと解する説もあるが、不自然な感じがする。同じく後の「終身苦しみ」も、長く苦しむ、となる。

【原文】
是故明君制民之產、必使仰足以事父母、俯足以畜妻子、樂歳終身飽、凶年免於死亡、然後驅而之善、故民之從之也輕、今也制民之產、仰不足以事父母、俯不足以畜妻子、樂歳終身苦、凶年不免於死亡、此惟救死而恐不贍、奚暇治禮義哉、王欲行之、則盍反其本矣、

 

7‐13 民の生活が豊かに安定し、教育を良くすれば必ず王者になれる


【現代語訳】
〈前項から続いて〉。「民には一世帯に五畝の宅地を与え、そのまわりに桑の木を植えて養蚕をさせると、五十歳過ぎた者でも絹を着て暮らせます。また、いろいろな家畜を飼わせて、子をはらんでいるときなどに殺さないように配慮して育てると、七十過ぎた者でも肉を食べて暮らせます。一世帯ごとに百畝の田地を与え、夫役は農繁期にさせないようにすると、八人くらいの家族なら、飢えることなどないでしょう。次には、学校での教育を重視し、道徳すなわち親を大事にすることや目上を立てることなどの義をきちんと教えれば、白髪まじりの老人が道路で重い荷物を持ち運ぶことなどなくなるでしょう。このように、老人が絹の服を着られ、肉を食べられ、一般庶民が飢えることも凍(こご)えることもないようになります。このような政治をして、王者とならなかった人など昔から今まで一人もございません」。

【読み下し文】
五畝(ごほ)の宅(たく)、之(これ)に樹(う)うるに桑(くわ)を以(もっ)てせば、五十(ごじゅう)の者(もの)以(もっ)て帛(はく)を衣(き)るべし。雞豚狗彘(けいとんこうてい)の畜(ちく)、其(そ)の時(とき)を失(うしな)う無(な)くんば、七十(しちじゅう)の者(もの)以(もっ)て肉(にく)を食(くら)うべし。百畝(ひゃく)ほ)の田(でん)、其(そ)の時(とき)を奪(うば)う勿(な)くんば、八口(はっこう)の家(いえ)(※)、以(もっ)て飢(う)うる無(な)かるべし。庠序(しょうじょ)の教(おしえ)を謹(つつし)み、之(これ)に申(かさ)ぬるに孝悌(こうてい)の義(ぎ)を以(もっ)てせば、頒白(はんぱく)の者(もの)道路(どうろ)に負戴(ふたい)せず。老者(ろうしゃ)帛(はく)を衣(き)、肉(にく)を食(くら)い、黎民(れいみん)飢(う)えず寒(こご)えず、然(しか)り而(しこう)して王(おう)たらざる者(もの)は、未(いま)だ之(これ)有(あ)らざるなり。

(※)八口の家……八人くらいの家族。なお、万章(下)第二章七参照。

【原文】
五畝之宅、樹之以桑、五十者可以衣帛矣、雞豚狗彘之畜、無失其時、七十者可以食肉矣、百畝之田、勿奪其時、八口之家、可以無飢矣、謹庠序之敎、申之以孝悌之義、頒白者不負戴於道路矣、老者衣帛、食肉、黎民不飢不寒、然而不王者未之有也、

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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 菜根譚コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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