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第130回

310話〜312話

2021.09.29更新

読了時間

  「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、孟子の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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11‐1 仁は人の心なり、義は人の路なり

【現代語訳】
孟子は言った。「仁は人の心である。義は人の路である。それなのに、その道を捨ててそれによらず、その本心を放ち失っても、探し求めることを知らない。悲しいことだ。人は自分の鶏や犬がいなくなると、それを追いかけ探すことを知っている。それなのに、自分の本心がどこかに放失されても、それを追いかけ探し、自分の元に戻すことを知らない。学問の道というのはほかでもない。自分の放出している本心を求め、取り戻すことだけのことである」。

【読み下し文】
孟子(もうし)曰(いわ)く、仁(じん)は人(ひと)の心(こころ)なり(※)。義(ぎ)は人(ひと)の路(みち)なり。其(そ)の路(みち)を舎(す)てて由(よ)らず。其(そ)の心(こころ)を放(ほう)して求(もと)むることを知(し)らず。哀(かな)しいかな。人(ひと)、雞(けい)犬(けん)の放(ほう)すること有(あ)れば、則(すなわ)ち之(これ)を求(もと)むることを知(し)る。心(こころ)を放(ほう)すること有(あ)りて、求(もと)むることを知(し)らず。学問(がくもん)の道(みち)は他(た)無(な)し。其(そ)の放心(ほうしん)を求(もと)むるのみ。

(※)仁は人の心なり……離婁(上)第十章では、「仁は人の安宅なり。義は人の正路なり」としている。なお、新渡戸稲造の『武士道』では、告子(上)第十一章のほとんどを引用したうえで次のように述べている。「孟子に後れること三百年、別の国で生まれた一人の偉大なる師(キリストのこと)が、『我は、見失った者が見い出すべき義の道である』と言ったその言葉を、鏡の中を見るように、ここでおぼろげながらも見ることができるではないか。私は論点からずれたかもしれないが、孟子によれば、義とは、人が失われた楽園を取り戻すべく歩むべきまっすぐな、そして狭い道なのである」(野中訳)。

【原文】
孟子曰、仁人心也、義人路也、舍其路而弗由、放其心而不知求、哀哉、人、有雞犬放、則知求之、有放心而不知求、學問之衜無他、求其放心而已矣。


12‐1 大切なものは何かを知っておく

【現代語訳】
孟子は言った。「今、くすり指が曲がってしまい、伸びなくなってしまったとする。別に痛くもなく、仕事にも影響があるわけではない。しかし、曲がった指を伸ばして、治してくれるという人があったら秦や楚のような遠い国でも行くに違いない。それは、単に指が人並みではなく、恥ずかしいという思いからである。このように、人は指が一本でも人並みでないと恥ずかしくて、このことを苦にすることを知っている。それなのに、心が人並みでないことは、苦にするわけではない。これは、どういうことだろうか。物の軽重をわかっていないと言うべきである」。


【読み下し文】
孟子(もうし)曰(いわ)く、今(いま)無名(むめい)の指(ゆび)(※)、屈(くっ)して信(の)びざる有(あ)り。疾痛(しっつう)して事(こと)に害(がい)あるに非(あら)ざるなり。如(も)し能(よ)く之(これ)を信(の)ばす者(もの)有(あ)らば、則(すなわ)ち秦(しん)・楚(そ)の路(みち)をも遠(とお)しとせず。指(ゆび)の人(ひと)に若(し)かざるが為(ため)なり。指(ゆび)の人(ひと)に若(し)かざるは、則(すなわ)ち之(これ)を悪(にく)むことを知(し)る。心(こころ)の人(ひと)に若(し)かざるは、則(すなわ)ち悪(にく)むことを知(し)らず。此(こ)れを之(これ)を類(るい)を知(し)らずと謂(い)うなり。


(※)無名の指……くすり指。


【原文】
孟子曰、今有無名之指、屈而不信、非疾痛害事也、如有能信之者、則不遠秦・楚之路、爲指之不若人也、指不若人、則知惡之、心不若人、則不知惡、此之謂不知類也。

 

12‐1 大切なものは何かを知っておく

【現代語訳】
孟子は言った。「両手または片手で握るほどの桐(きり)や梓(あずさ)の木でも、これをそこまで育てようと思えば、人は皆それを育てる方法については知っている。それなのに自分の身については、良く育てる方法を知らない。どうして自分の身を愛することが、桐や梓を愛することに及ばないのか。このことをよく考えるべきである(このことをよく考えないことが、はなはだしすぎるのである)」。


【読み下し文】
孟子(もうし)曰(いわ)く、拱(きょう)把(は)(※)の桐梓(とうし)(※)も、人(ひと)苟(いやしく)も之(これ)を生(しょう)ぜんと欲(ほっ)せば、皆之(みなこれ)を養(やしな)う所以(ゆえん)の者(もの)を知(し)る。身(み)に至(いた)りては、之(これ)を養(やしな)う所以(ゆえん)の者(もの)を知(し)らず。豈(あに)身(み)を愛(あい)すること桐梓(とうし)に若(し)かざらんや。思(おも)わざるの甚(はなはだ)しきなり。


(※)拱把……「拱」は両手で握ること、「把」は片手で握ること。
(※)桐梓……「きり」と「あずさ」の木。


【原文】
孟子曰、拱把之桐梓、人苟欲生之、皆知所以養之者、至於身、而不知所以養之者、豈愛身不若桐梓哉、弗思甚也。


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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 菜根譚コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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