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第133回

318話〜320話

2021.10.04更新

読了時間

  「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、孟子の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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18‐1 仁は不仁に勝つに決まっている

【現代語訳】
孟子は言った。「仁が不仁に勝つのは、水が火に勝つように、決まっていることである。しかし、今の仁を行う人というのは、少しの仁で不仁に勝とうと考えているようであり、ちょうど茶碗一杯の水で、車一台にいっぱい積んだ薪(まき)の火を消そうとするようなものである。そして、火が消えないとみると、たちまち水は火に勝たない(仁は不仁に勝たない)など言ってしまう。このようでは、不仁に味方することはなはだしいことになる。遂には、わずかにあった仁も必ずなくなってしまうだろう」。

【読み下し文】
孟子(もうし)曰(いわ)く、仁(じん)の不仁(ふじん)に勝(か)つは、猶(な)お水(みず)の火(ひ)に勝(か)つがごとし。今(いま)の仁(じん)を為(な)す者(もの)は、猶(な)お一杯(いっぱい)の水(みず)を以(もっ)て、一車(いっしゃ)薪(しん)の火(ひ)を救(すく)う(※)がごときなり。熄(や)まず(※)んば、則(すなわ)ち之(これ)を水(みず)は火(ひ)に勝(か)たずと謂(い)う。此(こ)れ又(また)不仁(ふじん)に与(くみ)するの甚(はなはだ)しき者(もの)なり。亦(また)終(つい)に必(かなら)ず亡(ぼう)せんのみ。

(※)救う……消す。
(※)熄まず……消えない。

【原文】
孟子曰、仁之勝不仁也、猶水勝火、今之爲仁者、猶以一杯水、救一車薪之火也、不熄、則謂之水不勝火、此又與於不仁之甚者也、亦終必亡而已矣。

19‐1 仁は熟していかなくてはならない

【現代語訳】
孟子は言った。「いわゆる五穀とされるものは、種子のなかで、おいしくて上等なものとされている。しかし、それが熟してないとすると、まずくて下等とされるひえの類にも及ばないものとなる。同じように、仁も熟していかなければ価値がないのである」。

【読み下し文】
孟子(もうし)曰(いわ)く、五穀(ごこく)(※)は、種(しゅ)の美(び)(※)なる者(もの)なり。苟(いやしく)も熟(じゅく)せずと為(な)さば、荑稗(ていはい)(※)に如(し)かず。夫(そ)れ仁(じん)も亦(また)之(これ)を熟(じゅく)するに在(あ)るのみ。

(※)五穀……滕文公(上)第四章十一参照。
(※)美……上等なもの。
(※)荑稗……ひえの類。

【原文】
孟子曰、五穀者、種之美者也、苟爲不熟、不如荑稗、夫仁亦在乎熟之而已矣。

20‐1 道を学ぶには仁義を重要な眼目とすべき

【現代語訳】
孟子は言った。「昔の弓の名人である羿は、人に射を教えるにあたっては、必ず弓を十分に引きしぼる頃合(日本でいういわゆる「離れ」)というものを、重要な眼目として教えた。また、それを学ぶ者もそこを学び取ろうと心がけた。大工の棟梁が人に教えるには、必ずコンパスと定規の使い方を重要な眼目とする。また、それを学ぶ者も必ずその使い方を学び取ろうとした」。

【読み下し文】
孟子(もうし)曰(いわ)く、羿(げい)(※)の人(にん)に射(しゃ)を教(おし)うるには、必(かなら)ず彀(こう)(※)に志(こころざ)す。学者(がくしゃ)も亦(また)必(かなら)ず彀(こう)に志(こころざ)す。大匠(たいしょう)、人(ひと)に誨(おし)うるには、必(かなら)ず規(き)矩(く)(※)を以(もっ)てす。学者(がくしゃ)も亦(また)必(かなら)ず規(き)矩(く)を以(もっ)てす。

(※)羿……離婁(下)第二十四章参照。
(※)彀……弓を十分に引きしぼる頃合。日本でいういわゆる「離れ」。
(※)規矩……「規」はコンパス、「矩」はさしがね。離婁(上)第一章一参照。なお、本章で孟子は、道を学ぶにおいては、仁義を重要な眼目とせよと言いたいようである。また吉田松陰は、本章で孟子が述べているのは、「全篇性(ぜんぺんせい)善(ぜん)の議論(ぎろん)の帰結(きけつ)なり」という(『講孟箚記』)。どういうことかというと、道を学ぶ我々は、ほどほどで良いなどと考えずに、もともと有する善き本質を生かし(性善説)、重要な眼目である「仁義」を、自分のものにしていくべきだし、それができるはずだと主張していると解する。

【原文】
孟子曰、羿之敎人射、必志於彀、學者亦必志於彀、大匠、誨人、必以規矩、學者亦必以規矩。


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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 菜根譚コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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