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第27回

76〜78話

2020.02.03更新

読了時間

 「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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76 清濁併せ飲める度量を持ちたい


【現代語訳】
雑菌が多く汚れた土地には多くの作物ができるが、あまりに澄んだきれいな水だと魚も住めない。だから君子も、世俗の垢を含んだ汚いものでも受け入れられる度量を持つべきで、潔癖すぎる独りよがりな節操を持つべきではない。

【読み下し文】
地(ち)の穢(けが)れたるものは多(おお)く物(もの)を生(しょう)じ、水(みず)の清(きよ)きは常(つね)に魚(うお)無(な)し。故(ゆえ)に君子(くんし)は、当(まさ)に垢(こう)(※)を含(ふく)み汚(お)を納(い)るるの量(りょう)を存(そん)すべく、潔(けつ)を好(この)み独(ひと)り行(おこな)うの操(そう)を持(じ)すべからず。

(※)垢……あか。よごれ。恥。なお、『老子』の任信第七十八に「国(くに)の垢(あか)を受うく、是(こ)れを社稷(しゃしょく)の主(しゅ)と謂(い)い」とある。『孔子家語』には、孔子の言葉として次のものを紹介している。「水(みず)至(いた)って清(きよ)ければ則(すなわ)ち魚(うお)無(な)く、人(ひと)至(いた)って察(さつ)なれば則(すなわ)ち徒(と)無(な)し」(入官篇)。もっとも、『孔子家語』は、東洋学者であり中国古代思想史を深く研究した金谷治氏によると、「原本は早く滅びて、今に伝わるものは、魏の王(おう)粛(しゅく)という人物の偽作である」という( 『孔子』 講談社学術文庫)。そうは言っても「部分的に古い伝承にもとづいたらしい形跡もあって、一概に捨て去るわけにはいかない」ともされる(同書)。

【原文】
地之穢者多生物、水之淸者常無魚。故君子、當存含垢納汚之量。不可持好洯獨行之操。

77 何もしない、やる気もない人間はどうしようもない


【現代語訳】
車をひっくり返すような暴れ馬も、よく調教すれば乗れるようになるし、鋳型(いがた)から飛び出るような金も、やがて鋳型におさまる。ただどうしようもないのが、一日のんべんだらりとし、やる気のない者である。これでは一生進歩せず、使いものにならない。白沙先生は言う。「生まれついての多病(欠点が多い)は、恥ずべきことではない。むしろ一生病気のないこと(問題意識、危機意識の欠如)のほうが心配である」。まことに確かな正論である。

【読み下し文】
泛駕(ほうが)の馬(うま)も、駆馳(くち)(※)に就(つ)くべく、躍冶(やくや)の金(きん)も、終(つい)に型範(けいはん)(※)に帰(き)す。只(た)だ一(いつ)に優游(ゆうゆう)(※)して振(ふる)わざるもの、便(すなわ)ち終身(しゅうしん)個(こ)の進歩(しんぽ)無(な)し。白沙(はくさ)(※) 云(い)う、「人(ひと)と為(な)り多病(たびょう)なるは未(いま)だ羞(は)ずるに足(た)らず。一生(いっしょう)病(やまい)無(な)きは是(こ)れ吾(わ)が憂(うれ)いなり」。真(まこと)に確論(かくろん)なり。

(※)駆馳……馬を走らせまわること。「馳駆」とする本もある。
(※)型範……鋳型。
(※)優游……のらりくらりとする。ぐずぐずしている。ぼうーとしている。なお、孔子も『論語』において「飽食(ほうしょく)して日(ひ)を終(お)え、心(こころ)を用(もち)うる所(ところ)無(な)し。難(かた)いかな」(陽貨第十七)と述べている。
(※)白沙……明の儒者、陳献章(ちんけんしょう)のこと。白沙先生といわれた。

【原文】
泛駕之馬、可就驅馳、躍冶之金、終歸型範。只一優游不振、便終身無個進步。白沙云、爲人多病未足羞。一生無病是吾憂。眞確論也。

78 欲ばらないことが、その人の宝となる


【現代語訳】
人は、少しでも私利私欲に走ると、強い心は弱くなり、澄んだ知恵もにごり、他人への愛も残酷な心に変わり、潔白な心もよごれてしまい、一生の品格を壊してしまうことになる。だから、ある古(いにしえ)の偉人は、「欲ばらないことが私の宝である」と言った。この一言こそが、世俗のよごれから超越する生き方である。

【読み下し文】
人(ひと)は只(た)だ一念貪私(いちねんたんし)(※)なれば、便(すなわ)ち剛(ごう)を銷(け)して(※)柔(じゅう)と為(な)し、智(ち)を塞(ふさ)ぎて昏(こん)と為(な)し、恩(おん)を変(へん)じて惨(さん)と為(な)し、潔(けつ)を染(そ)めて汚(お)と為(な)して、一生(いっしょう)の人品(じんぴん)(※)を壊了(かいりょう)(※)す。故(ゆえ)に古人(こじん)(※)、貪(むさぼ)らざるを以(もっ)て宝(たから)と為(な)すは、一世(いっせ)に度越(どえつ)する所以(ゆえん)なり。

(※)貪私……私利私欲をむさぼる。
(※)銷して……溶かして、消して。
(※)人品……品格。品性。
(※)壊了……壊してしまう。
(※)古人……ここでは春秋時代の楽喜(がくき)(司城子罕(しじょうし))のことを言っている。前漢の劉向(りゅうきょう)が編纂した『新序』のなかでこう述べている。「我(われ)は貪(むさぼ)らざるを以(もっ)て宝(たから)と為(な)し、爾(なんじ)は玉を以(もっ)て宝(たから)とす」。

【原文】
人只一念貪私、便銷剛爲柔、塞智爲昏、變恩爲慘、染洯爲汚、壞了一生人品。故古人以不貪爲寳、所以度越一世。

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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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