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第50回

145〜147話

2020.03.09更新

読了時間

 「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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145 自分の本心を知る時間を持つ


【現代語訳】
夜も更け、街の光もなくなっていき、すべての物音も消えていく。このときこそが私も初めてやすらかな眠りに入るときである。あかつきの夢から覚めるころ、万物もまだ起きて動き出してはいない。このとき、初めて自分も混沌の境から出ることができる。こうして心機一転して知恵の光をめぐらせて、自分をはっきりと見つめ反省すると、初めてあらゆる感覚で自分ががんじがらめにされており、醜い欲望に動かされているからくりがわかる。

【読み下し文】
一燈蛍然(いっとうけいぜん)(※)として、万籟(ばんらい)(※)声(こえ)無(な)し。此(こ)れ吾人(ごじん)初(はじ)めて宴寂(えんじゃく)(※)に入(い)るの時(とき)なり。暁夢(ぎょうむ)初(はじ)めて醒(さ)め、群動(ぐんどう)未(いま)だ起(お)こらず。此(これ)吾人(ごじん)初(はじ)めて混沌(こんとん)と出(い)づるの処(ところ)なり。此(これ)に乗(じょう)じて一念(いちねん)廻光(えこう)し、烱然(けいぜん)として返照(へんしょう)せば(※)、始(はじ)めて耳目口鼻(じもくこうび)は皆(みな)桎梏(しつこく)(※)にして、情欲(じょうよく)嗜好(しこう)は悉(ことごと)く機械(きかい)(※)たるを知(し)らん。

(※)蛍然……蛍の光のようにかすかな明かり。街の光がなくなっていく様子。
(※)万籟……よろずのひびき。
(※)宴寂……やすらかな眠り。
(※)一念廻光し、烱然として返照せば……心機一転して光をめぐらして自分をはっきりと見つめ反省すること。「廻光返照」は禅語で、自分の智慧(ちえ)の光をめぐらして自分を反省し、真実の自分を見つめること。「烱然」は光り輝くこと。
(※)桎梏……がんじがらめ。手かせ足かせ。
(※)機械……からくり。

【原文】
一燈螢然、萬籟無聲。此吾人初入宴寂時也。曉夢初醒、群動未起。此吾人初出混沌處也。乘此而一念廻光、烱然﨤照、始知耳目口鼻皆桎梏、而情欲嗜好悉機械矣。

 

146 反省する人はどんどん伸びる


【現代語訳】
自分を反省する者は、経験することすべてが身を養う良薬となる。人を責めてばかりの者は、思ったり考えたりすることすべてが自分を傷つける凶器となる。前者はことごとく善に向かう道を開き、後者はことごとく悪の源を深くしていく。この両者の違いは天と地ほどのものがある。

【読み下し文】
己(おのれ)を反(かえり)みる者(もの)は、事(こと)に触(ふ)れて皆(みな)薬石(やくせき)(※)と成(な)る。人(ひと)を尤(とが)むる者(もの)は、念(ねん)を動(うご)かせば即(すなわ)ち是(これ)戈矛(かぼう)(※)なり。一(いつ)は以(もっ)て衆善(しゅうぜん)の路(みち)を闢(ひら)き、一(いつ)は以(もっ)て諸悪(しょあく)の源(みなもと)を濬(ふか)くす。相(あい)去(さ)ること霄壌(しょうじょう)(※)なり。

(※)薬石……良薬。病気を治す薬と石ばり。本書の前集99 条参照。なお、『論語』で曾子は「吾(われ)は日(ひ)に三(み)たび吾(わ)が身(み)を省(かえり)みる」(学而第一)としている。孔子も「過(あやま)ちては則(すなわ)ち改(あらた)むるに憚(はばか)ること勿(な)かれ」(学而第一、子罕第九)という。さらに西洋ではベンジャミン・フランクリンが自伝のなかで紹介したいわゆる〝13の徳〟を毎日反省して手帳に記したのが有名である。これは明治の皇室をはじめ、正岡子規、新渡戸稲造など日本人にも多くの影響を与えた。
(※)戈矛……凶器。「戈」も、「矛」も、ほこのことをいう。
(※)霄壌……天と地。雲泥の差。

【原文】
反己者、觸事皆成藥石。尤人者、動念卽是戈矛。一以闢衆善之路、一以濬諸惡之源。相去霄壤矣。

 

147 変わることのない意気と節操を大事にして生きる


【現代語訳】
どんなに大きな事業・功績も、どんなに深い学問・教養も、身が没すれば消え失せていくものだが、人の精神はいつまでも新しい生命を与えられながら、時代とともに生き続けるものだ。どんなに高い地位、どんなに大きな名誉、財産があっても、世の移り変わりとともに人から人へと移っていくが、人の意気と節操は1000年の後も変わるものではない。君子は、このことを間違えるような愚を犯さずに生きていきたい。

【読み下し文】
事業(じぎょう)文章(ぶんしょう)(※)は身(み)に随(したが)って銷毀(しょうき)(※)すれども、精神(せいしん)は万古(ばんこ)に新(あら)たなるが如(ごと)し。功名(こうみょう)富貴(ふうき)は世(よ)を逐(お)うて転移(てんい)すれども、気節(きせつ)は千載(せんざい)(※)に一日(いちにち)なり。君子(くんし)は信(まこと)に当(まさ)に彼(かれ)を以(もっ)て此(こ)れに易(か)うべからざるなり。

(※)文章……ここでは学問や教養一般を意味する。なお、本書の前集57条、102条参照。
(※)銷毀……消え失せる。溶けてなくなる。
(※)千載……1000年。死後もずっと。本書の前集1条の「身後の身」参照。なお、吉田松陰の次の言葉も本項の参考になる。まるで本項を読んでいたようである。「人生(じんせい)草露(そうろ)の如(ごと)し。辛艱(しんかん)何(なん)ぞ慮(おそ)るるに足(た)らん。一朝(いっちょう)の苦(く)を顧(おも)うて、遂(つい)に千載(せんざい)の図(と)を空(むな)しうする勿(な)かれ」(五十七短古)。本項の解釈については、本書の前集177条参照。

【原文】
事業文章隨身銷毀、而精神萬古如新。功名富貴逐世轉移、而氣節千載一日。君子信不當以彼易此也。

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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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