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第51回

148〜150話

2020.03.10更新

読了時間

 「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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148 人間の浅知恵やたくらみなど役に立たない


【現代語訳】
魚を捕まえようと網を張ったところ、大きな雁(かり)がかかることがある。カマキリが獲物を狙っていると、スズメがその後ろから狙っていたりする。このように、人間社会も仕掛けのなかに仕掛けが隠されていて、異変のなかに異変が起こり、予想もつかない動きをする。人間の浅知恵やたくらみなど、何の役にも立たないのである。

【読み下し文】
魚網(ぎょもう)の設(もう)くる、鴻(おおとり)(※)則(すなわ)ち其(そ)の中(なか)に罹(かか)る。螳蜋(とうろう)(※)の貪(むさぼ)る、雀(すずめ)又(また)其(そ)の後(うし)ろに乗(じょう)ず。機裡(きり)に機(き)を蔵(ぞう)し(※)、変外(へんがい)に変(へん)を生(しょう)ず。智巧(ちこう)何(なん)ぞ恃(たの)むに足(た)らんや。

(※)鴻……大きな雁。なお、『詩経』に、「魚網(ぎょもう)の設(もう)くるや、鴻(おおとり)則(すなわ)ち之(これ)に離(かか)る」とある。
(※)螳蜋……カマキリ。なお、漢代の説話集『説苑(ぜいえん)』に次のような話が載っている。木にとまっていた蟬がつゆを飲もうとしていたが、その後ろからカマキリが食べようとしていた。ところがそのカマキリを雀が狙っており、その雀は猟師が狙っていたという。
(※)機裡に機を蔵し……仕掛けのなかに仕掛けが隠されている。なお、権謀術数(智械機巧)については本書の前集4条参照。

【原文】
魚網之設、鴻則罹其中。蟷蜋之貪、雀又乘其後。機裡藏機、變外生變。智巧何足恃哉。

 

149 少しは誠実さがないと何の信頼もされない


【現代語訳】
人であるためには、少しは誠実さがないといけない。さもないと、世を捨ててしまったもの乞いのようになってしまい、何の信頼もされない。また世のなかを渡っていくには、少しは気転もきかし、気づかい、配慮することが必要である。さもないと、何も見えない木の人形のように、どこに行っても障害につき当たることになる。

【読み下し文】
人(ひと)と作(な)るに、点(てん)(※)の真懇(しんこん)(※)の念頭(ねんとう)無(な)ければ、便(すなわ)ち個(こ)の花子(かし)(※)と成な(り)、事事(じじ)皆(みな)虚(きょ)なり。世(よ)を渉(わた)るに、段(だん)(※)の円滑(えんかつ)の機趣(きしゅ)(※) 無(な)ければ、便(すなわ)ち是(こ)れ個(こ)の木人(ぼくじん)(※)にして、処処(しょしょ)に碍(さわ)り有(あ)り。

(※)点……少しは。一点の略。前集15条の「一点」参照。なお、本項では、「少しは」としているが、『孟子』では「至誠」を説いている。すなわち「至誠(しせい)にして動(うご)かざる者(もの)は、未(いま)だ之(こ)れ有(あ)らざるなり。誠(まこと)ならずして、未(いま)だ能(よ)く動(うご)かす者(もの)は有(あ)らざるなり」(離婁章上篇)。もちろん、ここで『菜根譚』は、最低の人間としてのあり方を述べているのであって、理想は「至誠」にあろう。
(※)真懇……誠実。
(※)花子……もの乞い。
(※)段……少しは。一段の略。
(※)円滑の機趣……気転をきかし、気遣い、配慮をする。
(※)木人……木の人形。木偶(でく)。

【原文】
作人、無點眞懇念頭、便成個芲子、事事皆虛。涉世、無段圓活機趣、便是個木人、處處有碍。

 

150 心を苦しめるものを取り去れば、自然と楽しくなる


【現代語訳】
水は波さえ立たなければ、自然に静まる。鏡はちりやほこりでくもらなければ、自然とよく見える。人間の心も、無理して清くすることはない。心を濁らすものを取り去れば、自然と清くなる。楽しみも、必ずしも外に求めに行かなくてよい。心を苦しめるものを取り去れば、自然と楽しくなる。

【読み下し文】
水(みず)は波(なみ)たたざれば則(すなわ)ち自(おの)ずから定(さだ)まり、鑑(かがみ)(※)は翳(くも)らざれば、則(すなわ)ち自(おのず)から明(あき)らかなり。故(ゆえ)に心(こころ)は清(きよ)くすべきこと無(な)し。其(そ)の之(これ)を混(にご)らすものを去(さ)れば、清(せい)自(おの)ずから現(あらわ)る。楽(らく)は必(かなら)ずしも尋(たず)ねず。其(そ)の之(これ)を苦(くる)しむるものを去(さ)れば、楽(らく)自(おの)ずから存(そん)す。

(※)鑑……鏡。新渡戸稲造は『武士道』のなかで、日本の神道と鏡のことを論じている。本項の参考になると思うので紹介する。「この鏡の存在は説明しやすい。それは人の心を表すのであって、心が穏やかで澄んでいるならば、神の姿をそこに見ることができるのである」(野中訳)。

【原文】
水不波則自定、鑑不翳則自明。故心無可淸。去其混之者、而淸自現。樂不必尋。去其苦之者、而樂自存。

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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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