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第53回

154〜156話

2020.03.12更新

読了時間

 「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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154 職を辞するときは全盛のときが良い


【現代語訳】
職を辞するときは、全盛のときが良い。また身を置くところ、すなわち任地の場所は、人の行きたがらず、人と争うことのないところが良い。徳を慎むには、とても細かいことにおいても慎むべきである。人に恩恵を与えるときは、最初から恩返しできないような人に与えよ。

【読み下し文】
事(こと)を謝(しゃ)する(※)は、当(まさ)に正盛(せいせい)の時(とき)(※)に謝(しゃ)すべし。身(み)を居(お)くは、宜(よろ)しく独後(どくご)の地(ち)(※)に居(お)くべし。徳(とく)を謹(つつ)しむは、須(すべか)らく至微(しび)(※)の事(こと)を謹(つつし)むべし。恩(おん)を施(ほどこ)すは、務(つと)めて報(むく)いざるの人(ひと)に施(ほどこ)せ。

(※)事を謝する……職を辞する。官を辞する。
(※)正盛の時……全盛のとき。本項の解釈については、本書の前集30条および『老子』の運夷第九参照。
(※)独後の地……人の行きたがらず、人と争うことのないところ。
(※)至微……とても細かいこと。

【原文】
謝事、當謝於正盛之時。居身、宜居於獨後之地。謹德、須謹於至微之事。施恩、務施於不報之人。

 

155 昔の偉人の立派な言行こそ語り合いたい


【現代語訳】
町中に住む抜け目のない人と付き合うより、山中に住む老人と付き合うほうが良い。高位高官の家にご機嫌伺いに行くよりも、粗末な家に親しい友人を訪ねたほうが良い。町中のつまらないうわさ話を聞くよりも、きこりや牧童の歌でも聞いたほうが良い。今の人のつまらない不徳や失敗を話題にするより、昔の人の立派な言行を語り合うほうが良い。

【読み下し文】
市人(しじん)(※)に交(まじ)わるは、山翁(さんおう)を友(とも)とするに如(し)かず。朱門(しゅもん)(※)に謁(えつ)するは、白屋(はくおく)(※)に親(した)しむに如(し)かず。街談巷語(がいだんこうご)(※)を聴(き)くは、樵歌牧詠(しょうかぼくえい)(※)を聞(き)くに如(し)かず。今人(きんじん)の失徳過挙(しつとくかきょ)(※)を談(だん)ずるは、古人(こじん)の嘉言(かげん)懿行(いこう)(※)を述(の)ぶるに如(し)かず。

(※)市人……町のなかに住む抜け目のない人。
(※)朱門……高位高官の家。
(※)白屋……粗末な家。
(※)街談巷語……町中のつまらないうわさ話。
(※)樵歌牧詠……きこりや牧童の歌。
(※)失徳過挙……不徳や失敗。
(※)嘉言懿行……立派な言葉や言行。『孟子』は昔の人の立派な言行を探求し、友としていくことを「尚友(しょうゆう)」としている(万章下篇)。また、昔の偉人の言行を友と語り合う楽しみについては、吉田松陰が『講孟箚記』のなかで「此(こ)の楽(たの)しみ到(いた)る所(ところ)、居(お)る所(ところ)、吾(われ)と相(あい)随(したが)わざるはなし」として、何よりも比べることのできぬ楽しみ、喜びと述べているのが参考になる。

【原文】
交市人、不如友山翁。謁朱門、不如親白屋。聽街談巷語、不如聞樵歌牧詠。談今人失德過擧、不如述古人嘉言懿行。

 

156 人格が事業の成功と発展を決める


【現代語訳】
人格(徳)が事業の基礎である。まだ基礎(人格)も固まっていないのに、建物(すなわち事業)が、しっかりと立って長持ちするわけがない。心は子孫の根になる。根がきちんと植えられずに、その枝葉(つまり子孫)が茂り繁栄するわけがない。

【読み下し文】
徳(とく)(※)は事業(じぎょう)の基(もと)なり。未(いま)だ基(もと)の固(かた)からずして、棟宇(とうう)(※)の堅久(けんきゅう)なるものは有(あ)らず。心(こころ)は後裔(こうえい)(※)の根(ね)なり。未(いま)だ根(ね)植(う)えられずして、枝葉(しよう)の栄茂(えいも)するものは有(あ)らず。

(※)徳……人格。その人の誠実さ。西郷隆盛も「今(いま)の人(ひと)、才(識(さいしき)有(あ)れば事業(じぎょう)は心(こころ)次第(しだい)に成(な)されるものと思(おも)え共(ども)、才(さい)に任(まか)せて為(な)す事(こと)は、危(あやう)くして見(み)て居(い)られぬものぞ。体(たい)有(あ)りてこそ用(もち)は行(おこな)われるなり」(『西郷南洲翁遺訓』)とする。才能だけで物事はうまくいかないと戒める。また、現代の経営者における資質についても人格(徳)の重要性が説かれている。例えば、ピーター・ドラッカーは、経営リーダーに必要なのは「integrity」と述べている。日本語では「(道徳的・人格的に信頼できる)正直、清廉、高潔、誠実」となる(『リーダーズ英和辞典』大修館)。すなわち人格(徳)ということである。人格(徳)については、本書の前集139条参照。
(※)棟宇……建物。家屋。
(※)後裔……子孫。本項の解釈については、本書の前集94条参照。

【原文】
德者事業之基。未有基不固、而棟宇堅久者。心者後裔之根。未有根不植、而枝葉榮茂者。

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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 菜根譚コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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