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家族のためのユマニチュード その人らしさを取り戻す、優しい認知症ケア イヴ・ジネスト ロゼット・マレスコッティ 本田美和子

第1回

【認知症介護の本】はじめに

2018.08.21更新

読了時間

ユマニチュードは、フランスで生まれ、その効果の高さから「まるで魔法」と称される介護技法です。ユマニチュードの哲学では、ケアをするときに「人とは何だろう」と考え続けます。人は、そこに一緒にいる誰かに『あなたは人間ですよ』と認められることによって、人として存在することができるのです。「見る」「話す」「触れる」「立つ」の4つの柱を軸にした「技術」で、相手を尊重したケアを実現します。この連載では、ユマニチュードの考え方と具体的な実践方法を紹介します。
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 自分で身のまわりのことができなくなり、一緒に暮らしているご家族がお世話をするとき、それは介護と呼ばれます。介護を受けているのはご高齢の方ばかりではありません。進行したがんや、日常的に人工呼吸器などの医療機器が必要なとき、精神的な病気があったり、事故などで体がご不自由になった方、また先天性の病気のあるお子さんなど、さまざまな理由で自宅で介護を受けている方々がいらっしゃいます。
 最近介護をしているご家族から、「介護に困っている」とご相談を受けることが増えてきました。介護がうまくいかないとき、その理由は、介護をしている方の優しさとはあまり関係はありません。ご本人のためによかれと思って行っている介護が受け入れてもらえないとき、それはその「届け方」に問題があることが多いのです。介護には「うまく届けるための方法」があり、その「届け方」を学ぶことで、お困りになっている状況が解決する可能性があります。この本はその「届け方」をお伝えするためにつくりました。
「ユマニチュード」は、フランスの体育学の専門家イヴ・ジネストとロゼット・マレスコッティが考案したケアの技法です。二人は医療や介護の専門職員の腰痛を予防するために力を貸してほしいとフランス政府の依頼を受け、この分野での仕事を始めました。しかし、それだけにとどまらず、病院や介護施設で起きているケアが困難な状況の解決に40年間取り組み続け、「なぜ、このときはケアがうまくいかなかったのか」、「なぜ、今回はうまくいったのか」と思索をめぐらせながらケアの技術を開発してきました。そして、ケアの現場から生まれた技術をもとに、ユマニチュードの哲学が誕生しました。ユマニチュードとは「人間らしさを取り戻す」という意味のフランス語の造語です。そしてユマニチュードの哲学では、ケアをするときに「人とは何だろう」と考え続けます。
 人間にとって「自由であること」や「他者に優しくあること」は大切であると多くの人が考えている一方で、家庭や施設、病院などの介護や医療の現場では、ご本人のためと思って一生懸命やっていることが、結果的に無理やり行う強制的なケアになってしまったり、痛みを伴うケアになってしまったりしています。
 何かが強制的に行われるとき、そこに自由はありません。ケアによって痛みが引き起こされてしまっては、介護を受けている方が優しさを感じることは困難です。
 つまり、私たちが「大切だと思っていること」と、「実際にケアの場で行っていること」が矛盾しているのです。
 たとえ、生活に誰かの助けを借りるようになっても、「自分が自由な存在であること」、「生活に優しさがあふれる状態にすること」を実現するためには、どうしたらよいかをユマニチュードでは考え続けてきました。
 そして、ユマニチュードの哲学では、「人とは何だろう」と考えるとき、「人は、そこに一緒にいる誰かに『あなたは人間ですよ』と認められることによって、人として存在することができる」と定義しました。
 もちろん、「あなたは人間ですよ」とわざわざ相手に言う人はいません。そのかわりに、人は人間特有の4つの行動科学的コミュニケーションを通じてそれを相手に伝えています。ユマニチュードではそれを「4つの柱」と名付けました。そして、すべてのケアをこの4つの柱を使ったコミュニケーションを用いて行います。さらに、ケアをするにあたって一つの手順を提案し、これを「ケアの5つのステップ」と呼んでいます。いずれもこの本の中で具体的なやり方をご紹介します。
 介護で困った状況になったとき、ユマニチュードの考え方と技術を用いることで劇的な変化が生じることがあり、「魔法のような」と評されることもあります。しかし、ユマニチュードは魔法ではありません。どなたでも学び、実践することができます。その一方で、技術だけを学んでもうまくはいきません。どの技術を、どのように選び、どのように組み合わせるかを決めるときに、「人とは何だろう」、「ここで大切なことは何だろう」、「何を優先しようか」と考えるよりどころとなるのが、ケアの哲学です。
「哲学」を学び、「技術」を身につけて、介護を受けているご本人とよい関係を結び、「優しさを届ける」ことがユマニチュードの目的です。ユマニチュードは介護を受けるすべての方々を対象としますが、この本では、とりわけ認知機能が低下している方への介護の方法について詳しく紹介しています。ご家族の介護をしている方のお役に立つことができればうれしく思います。

本田美和子

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著者

イヴ・ジネスト/ ロゼット・マレスコッティ/本田美和子

【イヴ・ジネスト】ジネスト‐マレスコッティ研究所長。トゥールーズ大学卒業。体育学の教師で、1979年にフランス国民教育・高等教育・研究省から病院職員教育担当者として派遣され、病院職員の腰痛対策に取り組んだことを契機に、看護・介護の分野に関わることとなった。【ロゼット・マレスコッティ】ジネスト‐マレスコッティ研究所副所長。SASユマニチュード代表。リモージュ大学卒業。体育学の教師で、1979年にフランス国民教育・高等教育・研究省から病院職員教育担当者として派遣され、病院職員の腰痛対策に取り組んだことを契機に、看護・介護の分野に関わることとなった。【本田美和子(ほんだ・みわこ)】国立病院機構東京医療センター総合内科医長/医療経営情報・高齢者ケア研究室長。1993年筑波大学医学専門学群卒業。内科医。国立東京第二病院にて初期研修後、亀田総合病院等を経て米国トマス・ジェファソン大学内科、コーネル大学老年医学科でトレーニングを受ける。その後、国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センターを経て2011年より現職。

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