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子どもの敏感さに困ったら 児童精神科医が教えるHSCとの関わり方 長沼睦雄

第35回

【HSCの本】家庭問題に翻弄された子も危ない!

2018.03.09更新

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5人に1人といわれる敏感気質(HSP/HSC)のさまざまな特徴や傾向を解説。「敏感である」を才能として活かす方法を紹介します。
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家庭問題に翻弄された子も危ない!

 敏感で繊細な子は、家族のストレスも直に受けてしまいます。

 ある子の例です。

 ご両親が神経発達症で、子育てがうまくできませんでした。夫婦喧嘩をして離婚したのですが、どちらも子どもを引き取らないので、ある方が母親代わりとなり育てることになりました。

 学校に入ってから、私も呼ばれていろいろ学校での対応を相談しました。その方はものすごくまじめで熱心。そのおかげでその子も素直に育っていくのです。

 その子は、家庭でいろいろなストレスを受けて、育ちのトラウマがありました。それと生まれ持った敏感さと神経発達症があります。対人関係が苦手で、敏感で、聴覚過敏。さらに、運動が苦手です。頭はいいのですが、「書き」のLD(学習症)で、読めるけれども書くことが苦手でした。

 勉強はできるほうでしたから、進学校に入ります。ところが、高校2年生のときに悪い仲間とつきあったりするようになり、非行に走ってしまいます。

 人がいいから、友だちもできる。その一方で育ての親に悪態をつく。

 それでもその方は、その子の面倒を見続けました。

 なんとか大学に入ることができたのですが、それまで張り詰めていた気が緩んでしまったのか、全然勉強しなくなって、すぐに大学に行かなくなってしまった。いいところがある子なのですが、あまりにも心が傷ついていて、ともすれば迷走してしまいやすい。危ういものを抱えています。

 この子の心の傷の一番の問題は、こうしたい、ああしたいという自我が弱いことです。父親から罵倒され、否定され、それを文句も言わずに堪えしのんできた。お母さんからは見放され、育ての親が母親代わりになってくれた。しかし、その方は愛情は注げても本来の親としての役割を果たせません。両親に対する葛藤が癒えない限り、自分の芯を持って生きていけるようにならないかもしれません。

 こんな例もあります。

 この子も幼少期に両親が離婚しています。それからはお母さんとおばあちゃんと一緒に暮らしていました。おばあちゃんがとても厳しい人なのですが、反発することもなく、まじめに健やかに育ちました。頭もいいです。しかしそれは、精いっぱいがんばって、お利口さんにしていたのです。

 高校のときに変化が起こります。醜形恐怖が起こるようになったのです。思春期妄想症といいますが、自分のにおいや容姿に対して人がどう感じているかがやたらと気になってしまう。自分で鏡も見られない。人の視線が怖くてたまらなくなるのです。

 それで、包丁やハサミを持ち歩くようになり、ついにはかばんに包丁を入れて学校に行くようになります。

 お母さんが気づいて、病院に連れてきました。即刻入院です。

 誰かを傷つけようという気持ちではなく、人目が怖いから、自分を守るため、護身用に刃物を持っていると少しだけ安心できるということなのです。

 とても自信がなく、自己評価も低く、抑鬱症状も強かったので、入院すると、対人関係を避けてひとりでいることが多い生活でした。

 病院を出てからお父さんのところに身を寄せましたが、今度はお父さんとぶつかって一緒に暮らせなくなり、お母さんのところに戻ります。しかしやっぱりぶつかってしまう。家族のだれともうまくいかない。

 「最近、着る服が明るくなったね」と言っていたら、万引きしていたことがあとで発覚し、警察沙汰(ざた)になりました。非常にナイーブなのですが、非行もしてしまう。アルバイトをやっても続かない。

 お母さんは不安が強い人で、「何しちゃダメ」と押しつけてしまうタイプです。あれはダメ、これもダメと、縛ってしまう家庭で育っています。

 お父さんは基本的には「いいよ、いいよ」というタイプなのですが、この子が万引きをするなど常識がないことをやったりしてしまうものだから、心配して口うるさいことを言います。

 本人はつねに家族に縛られているような息苦しさを感じていました。

 私は家族の束縛から離れたほうがいいと考え、グループホームを紹介しました。そこの方針で「自由にしていいよ」という環境です。するとその子は悪さもしなくなり、とても落ち着いてきました。

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著者

長沼 睦雄

十勝むつみのクリニック院長。1956年山梨県甲府市生まれ。北海道大学医学部卒業後、脳外科研修を経て神経内科を専攻し、日本神経学会認定医の資格を取得。北海道大学大学院にて神経生化学の基礎研究を修了後、障害児医療分野に転向。北海道立札幌療育センターにて14年間児童精神科医として勤務。平成20年より北海道立緑ヶ丘病院精神科に転勤し児童と大人の診療を行ったのち、平成28年に十勝むつみのクリニックを帯広にて開院。HSC/HSP、神経発達症、発達性トラウマ、アダルトチルドレン、慢性疲労症候群などの診断治療に専念し「脳と心と体と食と魂」「見えるものと見えないもの」のつながりを考慮した総合医療を目指している。

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