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よみものどっとこむ

叢のものさし 小田康平

第2回

接ぎ木という園芸手法の可能性

2018.03.08更新

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【 この連載は… 】 植物選びの基準は「いい顔」をしているかどうか……。植物屋「Qusamura(叢)」の小田康平さんが、サボテンや多肉植物を例に、独自の目線で植物の美しさを紹介します。植物の「いい顔」ってどういうことなのか、考えてみませんか?

‘大型宝剣’という団扇サボテンに、‘ゲンコツ団扇’というサボテンを接ぎ木したもの。ゲンコツ団扇は‘鱗団扇’というサボテンの突然変異種で、生長点異常によりうねるように育っていくのが特徴。大型宝剣のエネルギーを受け取り大きく育った。

置かれた環境が赤の他人のサボテンの上という奇異な境遇だったとしても

初めてサボテン農家のハウスを訪れたのは、もうかれこれ十数年前。そこに一風変わったサボテンがいたのを覚えている。棒のような柱サボテンの上に丸いサボテンがちょこんと載せてあった。

それはサボテンの「接ぎ木」といわれるもので、2つのサボテンを組み合わせているものだった。園芸業界ではサボテンに限らず、野菜、庭木などでも頻繁に使われる技法で、生長を促したり、丈夫に育てたりするときに使う。

前回は、空間を構成するオブジェクトの一つとして個性を持つ植物、特にサボテンや多肉植物に可能性があるのではないかということを書いたが、サボテンの接ぎ木には、その可能性を感じたわけである。

昭和期によく行われていた‘杢キリン’を使った接ぎ木。穂木の‘振武玉’は発芽後間もない米粒大のものを、切断した棒の先に載せる。鉛筆のように細いサボテンだが穂木に送るエネルギーはパワフル。即席ではなく、植物がお互いバランスをとりながら生長してきたために、このような不安定な姿でも自立できる。

園芸家はさておき、おそらくとても多くの人がサボテン接ぎ木の存在を知らなかったと思う。少なくとも今から6年前の「叢」を立ち上げたときには、知らない人がほとんどだった。

通常、棒状の柱サボテンや煎餅のような形の団扇サボテンという、生長や発根力が極めて力強く、日本の環境にも強いサボテンが台木として選ばれる。そして生長が遅いものや個体数が少ない珍品など、希少価値の高い球状の玉サボテンが穂木として接がれる。接ぐ際は、台木の柱サボテンの上部を切断し、小さな大豆程度大の玉サボテンの下部を切断し、お互いの茎の中心にある維管束を繋ぎ合わせ、外れないように糸などで縛り圧力をかける。うまくいくと1週間程度で活着する。そのうち穂木のサボテンはぐんぐんと生長をはじめ、そのスピードは通常の生長速度よりも3倍から10倍程度も速くなると言われている。

このように接ぎ木とは、とても便利な園芸手法なのである。園芸家はこの機能性を重宝しているわけだが、打って変わって接ぎ木というビジュアルには全く価値を置いておらず、穂木のサボテンを早く大きく生長させるためにのみ接ぎ木を駆使し、その後大きくなった穂木を切り取り、上部だけを土に植えて何事もなかったように流通させる。そのため、接ぎ木の姿のまま流通しないのはごく当たり前のことで、世の中にその姿で出回ることはほぼ無い。

だからこそ、サボテンや接ぎ木のことを知らなかった僕にとって、その光景は異様だった。全く異なる生き物が人間の手によって繋ぎ合わされ、素知らぬ顔ですくすくと育つ(さらには繋ぎ合わされた方が余計に生長を活発化させる)様は、僕のこれまでの植物観を変えたし、ここにも一つサボテンの可能性があると思った。組み合わせやさまざまな接ぎ方は接ぎ主に委ねられる(組み合わせや接ぎ方は実に多種多様なので詳しく書きたいと思っている)。そこに表現の隙間が垣間見えた。

自然界には存在しえない独特なその姿は、一見、人工物のようにも見えてしまうが、当然のことながら、植物は生きていく。置かれた環境が土の上ではなく、赤の他人のサボテンの上という奇異な境遇だったとしても、それを淡々と受け入れ、その後はいつものごとく植物らしくエゴイスティックに生きていくのだ。そこに表現の隙間が垣間見えた。生きる植物に人がデザインを添えることができるのである。

農家が接ぎ降ろし目的のために自立しづらい‘五稜閣’の横枝に接いだ。その後、穂木の‘恩塚四角鸞鳳玉’は確実に大きくなり自立不能に。そのため、家のような支柱を作り観賞できるようにした。

この連載は、「月刊フローリスト」からの転載です。
最新話は、「月刊フローリスト」をご覧ください。

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著者

小田康平

1976年、広島生まれ。2012年、〝いい顔してる植物〟をコンセプトに、独自の美しさを提案する植物屋「叢-Qusamura」をオープン。国内外でインスタレーション作品の発表や展示会を行う。最新作は、銀座メゾンエルメス Window Display(2016)。http://qusamura.com

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