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子どもの敏感さに困ったら 児童精神科医が教えるHSCとの関わり方 長沼睦雄

第39回

【HSCの本】解離を否定していては、そこから抜け出せない

2018.04.06更新

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5人に1人といわれる敏感気質(HSP/HSC)のさまざまな特徴や傾向を解説。「敏感である」を才能として活かす方法を紹介します。
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解離を否定していては、そこから抜け出せない

 私のクリニックには、医療機関ですから当然ですが、症状が重くなってしまった子が多くやってきます。敏感さは環境によって生きづらさとなり、そして社会に適応できなくなることがあります。解離性障害はその最たるものといえます。

 いくつか例をご紹介しましょう。

 とても優秀な子です。敏感で、境界が弱く、解離性障害がありました。

 小学1年から本を何十冊も読んでいました。図書館で借りてきて、2、3日で10冊も読むような子です。6年生のときには自分で映画の脚本を書いています。

 小学5年ごろより、大人をバカにするような言動が見られました。学校への反抗や、自身がいじめられた経験もありました。

 中学では運動部に入り、のちに部長にまでなりましたが、責任感が強すぎ、自分は部長にふさわしくないと悩んでいました。

 友だちと分け隔てなく公平に接することができ、社交的な性格で、他人との争いごとを避け、仲間のことを優先させ、他人の立場に立って物事を考えることもできる。

 これだけを聞くと問題なさそうですが、じつはこれはすべて、境界の弱さのあらわれでもあるのです。彼は友だちに相談を受けることが多くありました。境界が弱いので、その友だちに感情移入しやすく、他人のことを自分のことのように感じてしまい、落ち込みます。

 家ではきょうだいや両親への攻撃がありました。やることは速いのですが、長続きせず、我慢できず、身の回りのことしかしない。パソコンを始めると目つきが変わり、一日中、集中してしまうので、次の日には疲れて学校に行けなくなってしまいます。

 小学6年ごろから記憶の空白があり、眠れず、夢と現実の区別がつきづらくなっています。

 無意識にすぐ謝ってしまったり、へらへらしてしまったり、人に暴言を吐いてしまったあとにひどく後悔したりする。

 何ごともすぐに深く考えてしまう。考え込むモードに入ると、何げない場面やにおいやおもちゃなどがフラッシュバックすることがありました。

 リストカットの痕が発見されて、中学2年生のときに入院となります。

 彼の中には、3人の人格がいました。表と裏ともうひとりの自分。4歳のままのわがままで自己中心的な自分と、大人の自分、そして保護者的な自分が葛藤していました。

 小学5年ごろまでは、大人の自分が4歳の自分を抑えていましたが、蓋が開いてしまい、4歳の自分が大暴れするようになりました。

 敏感な子たちが追い詰められ、心の中に別人格を生み出し、解離する。この子にも、それがあったのです。

 でも、両親は理解がありません。そういう中で、彼は3つの人格を統合して、いろいろやり取りしながら生活していました。

 進学校に入って、受験して、いまは大学院に行っています。もう私のところに来ないので、よくなったのでしょう。

 解離して、さまざまな人格になってしまう子もいました。

 その子は、小学1年のときに出生時の記憶の話をしました。小学3年で人の気持ちが読めているようだ、とお母さんは感じました。

 その頃に、厳しく児童を𠮟る先生のもとで震えて過ごして、それで頭が混乱してしまいます。ウソの自分ができた感じがして、どんどん自分が悪くなっていくと感じます。4年生になると、「バカ、死ね」と暴言が口から勝手に出たり、駅など人の多いところに行くと誰かに見られている感じがして、具合が悪くなったりしました。

 小学4年のときに両親が離婚して、転校します。引き取ったのはお母さん。すると、「おまえのせいで人生、めちゃめちゃになった」と言って、お母さんに手を上げるなどします。

 小学5年からボーッとするようになったり、記憶がなくなったりします。このころから解離が起こりました。「死にたい」「死ぬ」とか、「自分は解離障害です」などと言い、何回も入退院を繰り返すようになります。

 この子は、いろいろな相手の気持ちが全部入ってきてしまって、それが自分の口から出てしまうのだそうです。

 まわりの子の影響をものすごく受ける。いじめや虐待を受けた子どもがまわりにいると、その子の気持ちが自分に入ってきてしまう。過剰同調性という状態で、とにかくまわりに影響される。周囲の人のマイナス感情を取り込んでしまい、普段は素直でいい子が悪役になってしまうのです。

 自我がしっかりしている子は、こういうのはイヤだとピシャッとシャットアウトして、霊感を閉じる方向に向かえるのですが、この子の場合はそこが開けっ放しで、自分でコントロールができません。自我が弱く自分がないため、影響を受けていろいろな性質を取り込みます。

 HSCでアスペルガー症候群と解離性障害がある子です。

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著者

長沼 睦雄

十勝むつみのクリニック院長。1956年山梨県甲府市生まれ。北海道大学医学部卒業後、脳外科研修を経て神経内科を専攻し、日本神経学会認定医の資格を取得。北海道大学大学院にて神経生化学の基礎研究を修了後、障害児医療分野に転向。北海道立札幌療育センターにて14年間児童精神科医として勤務。平成20年より北海道立緑ヶ丘病院精神科に転勤し児童と大人の診療を行ったのち、平成28年に十勝むつみのクリニックを帯広にて開院。HSC/HSP、神経発達症、発達性トラウマ、アダルトチルドレン、慢性疲労症候群などの診断治療に専念し「脳と心と体と食と魂」「見えるものと見えないもの」のつながりを考慮した総合医療を目指している。

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