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叢のものさし 小田康平

第17回

叢の空間植栽 明福寺 後編

2019.06.13更新

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【 この連載は… 】 植物選びの基準は「いい顔」をしているかどうか……。植物屋「Qusamura(叢)」の小田康平さんが、サボテンや多肉植物を例に、独自の目線で植物の美しさを紹介します。植物の「いい顔」ってどういうことなのか、考えてみませんか?
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「和っぽい庭を」「モダンな庭を」「草原のような」などさまざまな空間植栽の依頼があるなかで、純粋にそうした庭を作ることが正解であることは案外少ない。なぜなら依頼主のイメージはあくまでぼんやりとした全体の雰囲気であって、表面的で一時的な解決だけでは継続的な庭は成立しないからである。それらの方向性を決めたうえで、何かしら雑味のような違和感を取り混ぜることで空間植栽としての完成度やユニークさが高まってくる。ここで紹介している明福寺の庭には、ジャングルを彷彿とさせる多種多様な植物でとした表情を出しつつ、直線や円という、最もシンプルで人工的な形をした鉄製のファイアプレイスと池を設置。単調な密林の中にスパイスのような少量のノイズを入れる。この違和感は、ジャングルを浮き立たせると同時に、フォーカルポイントとして全体を締める存在となる。
さらには、通路を隔てたエントランス側には、ガチガチに刈り込まれた球状のイブキを積み上げるように植栽。現代的でスタイリッシュな本堂と、野性味のある植栽を繋ぐような役割を担う。これらノイズを重ねていくことで植栽は立体感を増し、完成度の高い建造物や、感度の高い依頼主と同調しはじめる。
庭は庭だけで存在するということはなく、建造物や人々の生活や価値観と重なり合って、変化しながら寄り添っていく。各植物の特性、基本的な造園の常例など、知識としては持ち合わせておかなければならないが、それらを踏まえたうえでもう一段高い位置で庭を捉え、柔軟で観念的側面を持ち合わせた庭を提案していくことがこれからの庭の価値を高めていく重要な要素になるに違いない。

植栽のイメージをデッサンしたもの。鬱蒼とした感じを出すために、シルエットが反発し合う樹種を数多く盛り込んでいる。

 

完成写真。スリランカの熱帯雨林をイメージし、耐寒性植物で構成した庭。中心には鉄製のファイアプレイスや池があり、コンクリートの通路の向かい側にはイブキの刈り込みの植栽がある。

 

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この連載は、「月刊フローリスト」からの転載です。
最新話は、「月刊フローリスト」をご覧ください。

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著者

小田康平

1976年、広島生まれ。2012年、〝いい顔してる植物〟をコンセプトに、独自の美しさを提案する植物屋「叢-Qusamura」をオープン。国内外でインスタレーション作品の発表や展示会を行う。最新作は、銀座メゾンエルメス Window Display(2016)。http://qusamura.com

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