第7回
【HSCの本】発達を脳で診る視点
2017.06.30更新
5人に1人といわれる敏感気質(HSP/HSC)のさまざまな特徴や傾向を解説。「敏感である」を才能として活かす方法を紹介します。
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発達を脳で診る視点
私は、精神科医として臨床の現場に立つまでに、神経の研究をしていた時期があります。北海道大学医学部卒業後、最初は脳外科に入局しました。しかし実際に研修に行ってみて、自分の不注意さは脳外科向きではないと思うようになり、神経内科を専攻することにしました。その時代に感覚運動障がいに興味を持ち、「感覚統合療法」を学び実践しました。
その後、北大大学院でシナプス生化学の基礎研究に携わっていましたが、そのまま研究に勤しむ人生を送るか臨床医になるかという人生の決断のときを迎えて、障がい児医療に転向して児童精神科医になったのです。
以来、ずっと発達の問題を中心とする精神医学に取り組んできましたが、それまでの経歴もあって、発達についても「脳で診る」という視点を持ち続けてきました。
いまは脳科学がずいぶん隆盛になったおかげで、発達についても脳と絡めて捉えられるようになってきましたが、以前は行動面の特徴でしか診られていなかったのです。
私は、脳を6つの部位に分けて捉えています。右脳と左脳、前頭葉と後頭葉、さらに脳を横から見て、上が大脳皮質、下が大脳辺縁系となります。
(1)この6つそれぞれの活性度がどうか
(2)前後、左右、上下のバランスがどうか
(3)うまく結びついているかどうか
このような3つの考え方で、レベルとバランスとその結びつきを考えます。
中でも重要なのが、結びつき、他の部位との連絡です。非常に緻密な連絡網が形成されるのですが、これは生育過程で発達しながらつくられていきます。
そもそも、脳はどういうふうに発達していくかご存じですか?
脳の発達は、下から上へ、右から左へ、後ろから前へ、中から外へと進んでいくという原則があります。
発達の初期に古い脳で異常が起きると、それはその部位だけの問題ではなく、相互のバランスや、互いをつなぐ連絡のうえで「偏り」が生じます。それが脳全体に反映され、最終的に左前頭葉の発達に影響します。だから広汎性の障がいが起きると言われるのです。
もともと持っていた遺伝子に何か問題があったとか、お母さんのおなかの中にいたときに何かがあったとか、生まれてくるときに何かあったとか、脳の連絡網の正常な育成を阻んでしまう要因はいろいろあり得ます。
神経発達症(発達障害)とは高速道路が通行できない状態
脳には、脳全体の神経細胞を縦横無尽につないでいる連絡網(ネットワーク)がたくさんあります。そこを情報が行き来して、高速に処理されています。脳の一部だけではなくて、脳のあちこちの部分を同時に使えていることで、いろいろ複雑なことができるわけです。ところが、何かが原因でその連絡が悪くなってしまうと、複雑で高度なことができなくなります。
ハイスピードでやりとりできる脳の連絡網は、いわば全国の道路網だと考えてみてください。遠いところをノンストップでつなぐ高速道路もあれば、街中の小路もあり、さまざまな道のつながりで成り立っています。もし、高速道路が通れなくなったら遠距離を移動するのに時間がかかってしまいます。行けるけれども時間がかかる状態になってしまうのです。これを「スロープロセッシング(情報処理が遅い)」と言い、自閉スペクトラム症の特徴の一つにあげられています。
神経発達症というのは、脳のある部分の働きのバランスが悪く、いろいろ得意や不得手が出てきてしまうということもあるのですが、神経系の連絡網の働きがよくないことで起きていることもあるのです。
これは、神経発達症に限って起こっているのではなく、認知症でも統合失調症でも高次脳機能障がいでも起きているようです。
しかし脳というのは、発達していく過程でどこかに損傷があると、別の神経回路が補おうとして発達し、代償機能が生じます。脳の左が弱ければ右が強くなり、前が弱ければ後ろが、上が弱ければ下が、高速路が弱ければ低速路が強くなるのです。だから、障がいとは、どこかの機能が欠損している、凹だけがあるという状態ではなく、凹があれば凸もある状態なのだと考えられています。
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