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よみものどっとこむ

第8回

HSCの敏感さと自閉スペクトラム症の感覚過敏

2017.07.07更新

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【 この連載は… 】すぐにびっくりする。興奮したあとはなかなか寝つけない。服がぬれたり、砂がついたりすると、着替えたがる……5人に1人といわれる敏感気質(HSP/HSC)のさまざまな特徴や傾向を解説。「敏感である」を才能として活かす方法を紹介します。

自閉スペクトラム症はなぜ男児が多いのか

 脳の機能と神経発達症の話のついでに、自閉症はなぜ男児が多いのかという話をしておきましょう。

 自閉症は、圧倒的に男の子が多い。男女比率は8:2で、左脳の言語系が弱いという特徴があります。

 その原因ではないかと考えられているひとつに、男性ホルモン説というものがあります。15年ほど前にバロン・コーエンという人が出した考え方です。赤ちゃんがお母さんの胎内にいるとき、「アンドロジェンシャワー」といってテストステロン(男性ホルモン)を浴びることで男性生殖器ができていく時期があります。男性ホルモンが、脳の左から右への発達を阻害する因子となり、左脳の言語発達が弱くなりやすいというものです。

 一方、女性ホルモンは神経発達を促す作用が強いため、女の子は左脳の発達が阻害されず、言語系が男の子に比べて強いと考えられています。

 自閉スペクトラム症の中でも、アスペルガー症候群は左脳の言語機能が強いという特徴を持ちますが、こちらは女子も多く、その男女比はほぼ同等です。

 アンドロジェンシャワーの影響を受けない女性は左半球の発達がよくて、言葉が達者な人が多く、男性は言語化が苦手、いうなれば口下手が多いという特徴が性差であるのです。

HSCの敏感さと自閉スペクトラム症の感覚過敏

 さて、HSCの話に戻りましょう。

 HSPやHSCは学術的には敏感性感覚処理(sensory processing sensitivity)にあたり、感覚処理障害(sensory processing disorder)や感覚統合障害(sensory integration disorder)とは別物だと、アーロン博士は言います。

(以下引用)

 例えば、自閉症スペクトラムの場合は、感覚処理の過剰な負担に反応することもありますが、反応しないこともあります。自閉症の場合は、注意を向けるべきものと排除していいものとを見極めるのが難しいようです。ですから、人と話す時に、相手の顔よりも靴に気をとられてしまうことがあるのです。それに対して、HSPは顔をはじめとする社会的な手がかりに注意を払います。全ての情報を排除できずに受け止めたら、当然、子どもは過剰な刺激に圧倒されてしまうでしょう。自閉症スペクトラムの人は、自分が執着していることに対しては、ささいなことに気づいたりします。でも、社会生活では(人づきあいをしていく中では)、関係ないことのほうに注意を払いがちです。

 (『ひといちばい敏感な子』より。引用ここまで)

 ここに書かれているように、自閉スペクトラム症の場合は、社会的なものごとに対する理解の鈍さがあります。一方、HSCやHSPは社会的な理解がとんでもなくいい。共感力が高いのです。そこが決定的に違います。

 神経発達症の症状としての「感覚統合障害」とは、視覚・触覚・聴覚・嗅覚・味覚の五感と、前庭覚(体の動き、バランス、スピードなどを感じる感覚)、固有受容覚(手足の動き、筋肉の伸び縮み、力の入れ加減などの感覚)の7つの身体感覚の刺激反応性と能動性受動性の違いにより、感覚を受けないのか、受けすぎるのか、求めすぎるのか、避けすぎるのかなどの感覚の調整の障害を、感覚統合検査により見分けて、感覚運動療法により調整をしていくものです。

 ですから、HSPやHSCが刺激への過剰反応性が高い、つまり、過剰に受けやすい、些細な刺激に反応する、処理が深い、全体的に感情の反応が強い、などの特徴をもっているのとは、扱う感覚の種類も反応性の内容も異なるのです。

感覚の過敏さだけではすくい取れないもの

 HSCの持つ繊細さが自閉スペクトラム症の感覚過敏と混同され、ときには誤診されることもあります。

 ある患者さんはたいへん敏感な方で、私は「あなたはHSPで解離を起こしているね」といつも言っているのですが、統合失調症だと診断されているそうです。繊細すぎてすぐに疲れ果ててしまうので、普通の人と同じように働くことができないのですが、共感性は高く、十分な社会性をもっています。

 HSCが自閉スペクトラム症だ、多動だ、統合失調症だと考えられてしまうのも、幻覚や不注意といった解離の症状やさまざまな感覚の過敏さを取り上げてしまうところにあると思います。

 私は療育センターで働いていたときに、発達障がいの療育の手法として、感覚統合療法を学びました。

 感覚統合障害があるかどうかというのは、前に述べたように、視覚・触覚・聴覚・嗅覚・味覚の五感と前庭覚、固有受容覚の7つの感覚について、行動を観察したり、運動能力を見たりして、チェックします。あくまで五感や身体感覚に対する判断です。

 神経発達症における五感や身体感覚統合の異常の結果、どういう行動をしているかということだけで判断するのが、医学が扱う部分です。それも真実であり重要なのですが、科学的に実証されうるところだけで判断していたのでは、その人の本当に抱えている感覚のつらさはわからないと思います。

 実際には人間の敏感さには、感情や痛みに対する敏感さもあれば、見えないものに対する感受性といった、五感や身体感覚以外のいろいろな感覚に対する過敏性があるわけです。いままでの医学はそれを問題にしてこなかったわけです。たとえば、共感性の強さを見れば、自閉スペクトラム症とHSCとを勘違いすることは避けられます。

 私がそういうところに疑問を感じていたときに、アーロン博士がHSPという概念を打ち出し、「五感以外の敏感さもいろいろある」という視点を提供してくれたので、私は「そうそう、そういうことなんだよ」と共感したのです。

 感覚統合療法的視点は、神経発達症の子どもの理解のためにはとてもすぐれています。ただし、それ以外の感覚の問題もあることを考えることが大事なのです。

 HSCのように、感覚の統合がうまくいかないのではなく、過剰な感覚刺激に圧倒されたり、疲れきったりしている子にとっては、入ってくる情報を減らし、一人で静かに過ごせる空間や時間をつくってあげることこそが大事なのです。

 HSPやHSCはその人の生まれ持った気質であって、病気や障がいを意味するものではありません。気質をベースに育ってくる性格や人格とも違います。治したり変えたりできるものではないのです。生まれもった特性としてうまく付き合っていくことを考えるものなのです。

 たとえば、人間の中には生まれつき結腸が後腹膜に固定されておらず、腸が長く下腹部に下重している人が少なからずいます。その人は、便秘しやすく下剤もなかなか効果がないので、食生活や腸運動への配慮が必要です。このように人それぞれ生まれもったものを知り、うまく付き合っていかなければいけないのです。

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著者

長沼 睦雄

十勝むつみのクリニック院長。日本では数少ないHSPの臨床医。昭和31年山梨県生まれ。北海道大学医学部卒業。脳外科研修を経て神経内科を専攻し、日本神経学会認定医の資格を取得。北海道大学大学院にて神経生化学の基礎研究を修了後、障害児医療分野に転向。道立札幌療育センターにて小児精神科医として14年間勤務。平成12年よりHSPに注目し研究。平成20年より道立緑ヶ丘病院精神科に勤務し、小児と成人の診療を行う。平成28年十勝むつみのクリニック開業。発達障害、発達性トラウマ、解離性障害などの診断治療に専念し、脳と心と体の統合的医療を行っている。著書に『活かそう!発達障害脳 「いいところを伸ばす」は治療です。』(花風社)、『敏感すぎる自分を好きになれる本』『気にしすぎ人間へ クヨクヨすることが成長のもとになる』(ともに青春出版社)、『コミックエッセイ 敏感過ぎる自分に困っています』(宝島社)などがある。

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