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子どもの敏感さに困ったら 児童精神科医が教えるHSCとの関わり方 長沼睦雄

第29回

【HSCの本】HSCって遺伝なの?

2018.01.26更新

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5人に1人といわれる敏感気質(HSP/HSC)のさまざまな特徴や傾向を解説。「敏感である」を才能として活かす方法を紹介します。
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HSCって遺伝なの?

 HSCやHSPは遺伝的なものだといわれています。しかし、HSPではない親御さんのところにHSCの子が生まれることもあります。

 親子共にHSPであっても、敏感さのあらわれ方はまったく違ったりもします。

 つまり、遺伝ですべてを説明できるというものではなさそうだということがわかります。

 これをどう解釈したらいいか。

 遺伝か環境かの橋渡しをするのが、エピジェネティクスと呼ばれる遺伝子発現を制御・伝達する遺伝情報システムです。人間は60兆個もの細胞から成り立っており、その細胞は、酵素と呼ばれる高分子蛋白質の働きで機能が維持されています。その蛋白質を作る設計図がDNA配列にコードされているのが遺伝子です。2万個以上の遺伝子のさまざまな組み合わせで蛋白質が合成されるのですが、どの遺伝子を発現させるかのメカニズムがあります。遺伝子のDNA配列に変化がなくても、その発現のされ方が環境の刺激で変化し、世代間を伝わることがわかっています。

 たとえば、一卵性双生児の場合、本当に瓜ふたつ、そっくりで生まれてきますが、成長の過程でどこか少しずつ違った容姿や性格になっていきます。これは生育環境の中で、どんな遺伝子が発現したか、スイッチの入り方が違っていくからだというわけです。

 このような後天的な遺伝子の発現を調整している仕組み、遺伝子のスイッチをオンにしたりオフにしたりする仕組みや学問のことを「エピジェネティクス」といいます。

 これに基づけば、健康によい遺伝子を持っていても、そのスイッチがオンにならなければ健康にはならない、また、深刻な病気を招くような悪い遺伝子を持っていたとしても、そのスイッチがオンにならなければ病気にならない、すなわち病気を心配するには及ばないということになります。

 つまり、スイッチのオン、オフの決め手となるのが環境であるということ。同じ遺伝子を持っていても、環境次第で発現の仕方が変わる。さらにいうと、同じ環境でも刺激の受けとめ方で、遺伝子発現の仕方が変わってくるということです。

 さまざまな精神疾患で、脳の神経ネットワークに異常なところがあることがわかってきました。脳の離れた場所を神経線維でつなぎ、同期して活動させるのがネットワークシステムですが、長い神経線維の軸索やシナプスの活動を維持していくには、何百という蛋白質が必要であり、道路網にたとえると、高速道路にあたる速くて長距離を結ぶ神経線維が、神経発達症では障害されやすいようです。

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著者

長沼 睦雄

十勝むつみのクリニック院長。1956年山梨県甲府市生まれ。北海道大学医学部卒業後、脳外科研修を経て神経内科を専攻し、日本神経学会認定医の資格を取得。北海道大学大学院にて神経生化学の基礎研究を修了後、障害児医療分野に転向。北海道立札幌療育センターにて14年間児童精神科医として勤務。平成20年より北海道立緑ヶ丘病院精神科に転勤し児童と大人の診療を行ったのち、平成28年に十勝むつみのクリニックを帯広にて開院。HSC/HSP、神経発達症、発達性トラウマ、アダルトチルドレン、慢性疲労症候群などの診断治療に専念し「脳と心と体と食と魂」「見えるものと見えないもの」のつながりを考慮した総合医療を目指している。

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