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子どもの敏感さに困ったら 児童精神科医が教えるHSCとの関わり方 長沼睦雄

第14回

【HSCの本】<子育てアドバイス>怖がりすぎを何とかしたい

2017.10.06更新

読了時間

5人に1人といわれる敏感気質(HSP/HSC)のさまざまな特徴や傾向を解説。「敏感である」を才能として活かす方法を紹介します。
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■「なんだ、こんなものか」と思えるように仕向けていきましょう

「幼稚園のみんなに人気のあるテレビ番組も、うちは『怖い、消して』と言います。夜、寝ていたかと思ったら、突然悲鳴を上げて泣き出すこともあります。男の子なのに、あまりにも怖がりすぎ。こんなビビリで、この先、学校でうまくやっていけるのか心配です」

 「遊園地に行っても、『怖い』の連発でどのアトラクションにも乗りたがりません。結局、何にも乗らずに帰ってきました。公園の遊具すら怖がって乗れないことを知っていた私は『やっぱりな』という感じでしたが、パパはその様子を初めて目の当たりにしてショックだったみたいです」

 HSCやHSPの敏感さがよくわからない親御さんは、臆病、怖がりといった感情面に目がいき、性格的なものではないかと捉えがちです。しかし、これは感覚の問題なのです。

 神経が鋭敏に反応してしまうことに一番困惑しているのは、当の本人であるということに思いを巡らせてあげてください。

 HSCは、刺激を深く感じやすいため、おそらく過去に見たり聞いたり感じたりした怖い経験の記憶がそのまま残ってしまっているのです。それがそのときにふっとよみがえって、大きく反応したりしてしまうのではないかと思われます。

 乳児の夜泣きもそうなのですが、敏感な子が突然泣き出すときというのは、その状況の外的要因に反応しているばかりではなく、内側から何か怖さの感覚が湧いてくるということもあります。敏感な人の中には、超感覚を感じやすい体質の人もいて、見えないものに怯えて反応するようなこともあるらしいのです。それは約500人の子どもたちの感覚過敏性のデータを取ったときにわかったことでした。

 いろいろなことに怖がりな子には、「怖いことなんかないだろう、弱虫だな」とか「そんなことじゃダメでしょ」と子どもを非難したり、否定したりするのでなく、怯えの状況に理解を示して、安心させてあげることです。とくに、きつい言葉や大きな声での叱責は、恐怖心をあおりたてていっそう怖がってしまいやすいので、小さな声で穏やかに話すことが大切です。

 不安があまりにも長く続くと、不安が不安を呼び、「過興奮性」をもつようになります。恐れが不安となって出てきます。不安は克服するより予防するほうがずっと簡単です。「これは本当はこうなんだよ」と教えてあげたり、「今は無理なら次にしましょう」と不安を受け止めたり、「あのときは楽しかったね、うまくいったね」とポジティブな記憶を思い出させたりしてみてください。

 これらの予防策で不安を切り替えるやり方を十分に身につけた段階で、一緒に不安な気持ちを絵や色や数字や言葉や顔マークなどで表出していきます。

 前述しました、母親の胎内での恐怖麻痺反射が残っているような子どもだと、触覚も過敏で怖さを肌ざわりとして感じたり、身体の深層筋が弱いために姿勢を維持する筋肉が低緊張だったり、前庭感覚や固定受容感覚が未熟でバランスがとりづらかったりして、不安定な足場をとても怖がる「重力不安」という状態になっています。

 遊園地が怖いのは、重力不安があったり、敏感な子には刺激が強すぎる場所だからです。スピード、ゆれ、回転、楽しませるための仕掛けの色、音、そして大勢の人たちの歓声……。普通の感覚の人は平気で楽しく感じても、もし100倍の強さでそれらの刺激が自分を襲ってきたらどうかと考えてみればいいと思います。圧倒され、怯えてしまうのではないでしょうか。HSCにとってそういう状態なのだと考えると、理解しやすいはずです。

 HSCの場合、刺激過多の遊園地に行って、あれやこれやいろいろな乗り物に乗って楽しむというのは、至難の業です。いろいろ欲張らないで、本人が怖がらないものをひとつだけ体験させてあげられれば十分、くらいに考えてください。

 これはこういう乗り物で、怖いことは起こらないと説明しておきます。親やきょうだいが乗ってみせ、大丈夫だというところを実際に見せてあげるのもいいかもしれません。

 その気になれたら、一緒に乗ってみましょう。遊園地を怖がるタイプの子は、ちょっと重力不安があるのかもしれません。それでスピードやゆれ、回転への抵抗が強い可能性があります。パパかママがずっとそばにいるからという安心感を持たせてあげることが大事です。

 「怖くなかった。これに乗れて楽しかった」というプラスの記憶にできたら大成功です。その日はもうそれだけで帰るくらいに考えておくのがいいと思います。

 怖いものというマイナスの印象でなく、「平気だった」という安あん堵ど感と、「たいしたことなかった」「克服できた」という自信が、楽しさにつながれば、「また行きたい」「今度は別のものにも乗ってみたい」というように、少しずつ変えていけるでしょう。

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著者

長沼 睦雄

十勝むつみのクリニック院長。1956年山梨県甲府市生まれ。北海道大学医学部卒業後、脳外科研修を経て神経内科を専攻し、日本神経学会認定医の資格を取得。北海道大学大学院にて神経生化学の基礎研究を修了後、障害児医療分野に転向。北海道立札幌療育センターにて14年間児童精神科医として勤務。平成20年より北海道立緑ヶ丘病院精神科に転勤し児童と大人の診療を行ったのち、平成28年に十勝むつみのクリニックを帯広にて開院。HSC/HSP、神経発達症、発達性トラウマ、アダルトチルドレン、慢性疲労症候群などの診断治療に専念し「脳と心と体と食と魂」「見えるものと見えないもの」のつながりを考慮した総合医療を目指している。

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