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子どもの敏感さに困ったら 児童精神科医が教えるHSCとの関わり方 長沼睦雄

第2回

【HSCの本】子どもはつらさを語らない

2017.05.26更新

読了時間

【 この連載は… 】5人に1人といわれる敏感気質(HSP/HSC)のさまざまな特徴や傾向を解説。「敏感である」を才能として活かす方法を紹介します。
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子どもはつらさを語らない


 2008年から、私は大人の診療もするようになりました。かつては「発達障害」というと子どもの問題だと捉えられていたのですが、子どものころには気づかず、大人になって初めて神経発達症と診断されるケースが増えていました。それを象徴するのが、『片づけられない女たち』という本に見られるような症状を抱える人たちで、「私は発達障害なのではないでしょうか?」という大人の患者さんたちが急増したのです。

 じつは、この大人の診療を始めたことが、私がHSCについて、より理解を深めるきっかけになりました。

 というのは、子どもは自分の抱えるつらさをあまり語りません。もちろん年齢による違いや個人差はさまざまですが、たとえば「音がうるさくてたまらない」「光がまぶしい」「臭くて耐えられない」「チクチクしたさわり心地がイヤ」といった感覚的なことは言えても、自分が感じている不快さ、怖れ、不安などの感情やそのニュアンスを、大人に理解してもらえるように伝えるだけの言語表現を持っていないことがほとんどです。

 あるいはまた、HSCの場合、感じたことをそのまま言うと、いつも周りから「へんな子だ」「神経質すぎる」「ちょっとおかしいんじゃない?」などと言われ続けてきていることで、感じていることを素直に伝えようとしなくなってしまっているケースも多くあります。

 ですから、メンタルな部分でその子がどれほど傷つき、苦しんでいるのかは、話しているだけではなかなかわからないものなのです。

 しかし大人の患者さんたちと話している中で、「あなた、子ども時代はどうでしたか?」と聞くと、「そういえば、こうでした」「こういうことが、こんなふうにつらかったです」とつぶさに話してくれます。

 そういう話の中に、「ああ、この人はHSPだな。子ども時代、そんなふうに感じていたんだ」というようなことも多々あって、いろいろ教えてもらうことができたのです。

 神経発達症にしても、HSCにしても、そうでした。大人の患者さんたちが子ども時代のことをいろいろ語ってくれたことで、子どもの状況を具体的に知ることができるようになったのです。

 大人の場合は、自分の感じていることを言葉で伝えたり、自分からその状況を遠ざけたりすることができます。子どもはそれができない分、よりつらいはずです。身体的な反応や行動であらわすしかないのです。なかには、癇癪(かんしゃく)を起こすことでしか、自分の不快さやしんどさを表現できない子もいます。だから、周囲の大人が気づいて、サポートしてあげる必要があるのです。


HSCやHSPは病名、診断名ではない


 敏感すぎる子どもを持つあるお母さんが、お子さんを病院に連れて行ったところ、「自閉スペクトラム症(これまでの自閉症・アスペルガー症候群・広汎性発達障害などをこう呼ぶようになりました)の可能性があります」と診断されたそうです。

 そのお母さんは診断に疑問を抱き、私のところにメールで問い合わせをしてこられました。

「自閉スペクトラム症について、いろいろ調べてみました。たしかに感覚過敏という部分ではうちの子はあてはまるのですが、それ以外のところは全然違うのです。この診断に首を傾げています。ちなみにその先生からは、HSPとかHSCという話は一言も出てきませんでした」

 こういうケースは、けっこうあるのではないかと想像されます。

 自閉スペクトラム症の中にも、感覚過敏の症状を持つ人がいます。ですから、過敏さというところだけを取り上げると、HSCと重なってくるところがあります。しかし、このお母さんも気づかれているように、その他の症状を見れば、それが自閉スペクトラム症なのかどうかは本来きちんとわかります。

 ただ問題なのは、HSPやHSCは病名でも診断名でもないということです。医学的な概念として認められていないのです。あくまでも心理学的な、社会的なひとつのものの見方にすぎないという位置づけなのです。

 ですから、精神科や神経科、心療内科にかかっても、HSPやHSCだと診断されることはまずありません。HSPという概念を知らない医師もいますし、たとえ知識としては知っていても、それを生きづらさとは見なさないのが一般的です。

 私は、心の診療を行ううえで役に立つものの考え方はどんどん取り入れていくという方針のもと、脳と心と体を統合して診ることを目指しているので、HSPというのはとても重要な概念だと捉えています。しかし現実問題としては、私のように、「ああ、あなたはHSPですね」とか、「お子さんはHSCですよ」と見立てる医師は、きわめてまれな変わり者だということです。

 とくに神経発達症のように複合的な要素が絡まり合っている患者さんに向き合うためには、HSPやHSCへの理解が必要だと私は思っているのですが、エビデンスに基づいた医学や心理学の世界ではなかなか理解されにくいようです。

 そのせいで、「先生、そんなことばかり言っていると学会にいられなくなりますよ」と言われてしまったこともあります。

 HSPやHSCへの理解のある臨床医は、まだ限られているし、なかなか増えにくい状況だと言わざるを得ません。

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  • みんなの感想

    匿名

    自閉症スペクトラムで過敏の症状がある場合と、自閉症スペクトラムではなくHSP,HSC の症状とは、どのような違いがあるのでしょうか?

    返信
    • みんなの感想

      長沼睦雄

      ご質問ありがとうございます。
      この連載の第8回で、HSCの敏感さと自閉スペクトラム症の感覚過敏について詳述する予定ですが、ここでは簡単にまとめてみます。
      HSPやHSCは学術的には「敏感性感覚処理」にあたり、自閉スペクトラム症の「感覚統合障害」とは別物です。自閉スペクトラム症の場合は感覚処理に偏りがあり、自分が執着していることに対してはささいなことに気づいたりするのですが、たとえば人と話す時に、相手の顔よりも靴に気をとられてしまうなど、社会的なものごとに対する理解の鈍さがあります。一方、HSCやHSPは顔をはじめとする社会的な手がかりに注意を払うなど、社会的な理解がとんでもなくよく、共感力が高い。そこが決定的に違います。
      HSCやHSPは刺激への過剰反応性が高く、処理が深い。ですので、偏った感覚処理という問題ではなく、すべての情報を排除できずに受け止めてしまい、過剰な刺激に圧倒されてしまっている状態なのです。

      返信
著者

長沼 睦雄

十勝むつみのクリニック院長。1956年山梨県甲府市生まれ。北海道大学医学部卒業後、脳外科研修を経て神経内科を専攻し、日本神経学会認定医の資格を取得。北海道大学大学院にて神経生化学の基礎研究を修了後、障害児医療分野に転向。北海道立札幌療育センターにて14年間児童精神科医として勤務。平成20年より北海道立緑ヶ丘病院精神科に転勤し児童と大人の診療を行ったのち、平成28年に十勝むつみのクリニックを帯広にて開院。HSC/HSP、神経発達症、発達性トラウマ、アダルトチルドレン、慢性疲労症候群などの診断治療に専念し「脳と心と体と食と魂」「見えるものと見えないもの」のつながりを考慮した総合医療を目指している。

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