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子どもの敏感さに困ったら 児童精神科医が教えるHSCとの関わり方 長沼睦雄

第12回

【HSCの本】<子育てアドバイス>これってただの敏感?それとも神経発達症?

2017.09.22更新

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5人に1人といわれる敏感気質(HSP/HSC)のさまざまな特徴や傾向を解説。「敏感である」を才能として活かす方法を紹介します。
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■五感の感覚過敏がずっと続く場合は、自閉スペクトラム症の可能性もあります

「顔に水がかかることを極端にイヤがるため、いつも洗髪が大騒ぎです」

「点滅する光とか、サイレン音の恐怖症です。『男の子はこういうの好きでしょ』と言われるのですが、消防車、救急車、パトカー、全部ダメな子もいます」

「掃除機、ヘアドライヤー、外出先のトイレの温風の出るハンドドライヤーなどモーター音系がとくに苦手で、耳をふさいでしゃがみ込みます」

「手が汚れることがすごくイヤみたいで、食事中にちょっと手にケチャップやソースがつくと、『汚れた、拭いて』とギャーギャー言います。雨の日に水たまりでバシャバシャやって泥んこ遊びするような無邪気さもありません。粘土遊びも拒否です」

 断片的な情報だけでは判断できませんが、こういった五感に関する過敏さがずっと続き、興味や関心の狭さ、切り替えの苦手さ、きりもなく繰り返す行為などがみられる場合は、ただの敏感気質というより自閉スペクトラム症であるケースが多いです。

 定型発達の場合には、最初は驚いて怖いとかイヤだと感じても、たいていは経験するうちにだんだん慣れていきます。しかし、自閉スペクトラム症の場合は、ずっと慣れません。

 感覚の馴化が起きないのです。「どうして毎度毎度そんなに驚いたりイヤがったりするのか」とこちらが思っても、当人はそのたびに初めての場面に出会っているように感じているのです。

 神経発達症で感覚過敏の症状のある子が多いことは確かですが、みんながみんな感覚過敏なわけではありません。私は、何らかの発達特性を抱えた子どもたち500名ほど(男女比8:2)の感覚過敏性を調べてみたことがあります。受診時に書いてもらうチェックリストに基づいて、前庭・触覚・聴覚・視覚・嗅覚・味覚、さらに超感覚(超記憶・直感・霊感・自然感性・特定恐怖)の敏感さを分析してみたのです。結果、自閉スペクトラム症の子は感覚過敏の比率が高く、なかでも触覚・聴覚・視覚の過敏さが強い傾向がありました。

 けれども、過敏さというのはあくまで発達特性の一部に過ぎません。

 敏感さを考えるときには、いろいろな要素を考える必要があります。持って生まれた気質もある。家族関係の影響もあります。愛着障がいやトラウマ、心の傷が絡んでいることも多いのです。また、神経発達症が関係していることもあります。ですから、何が敏感さを生んでいるのか、精神的な問題として多面的に見なければなりません。

 モデルでタレントの栗原類さんが『発達障害の僕が輝ける場所をみつけられた理由』(KADOKAWA)という本を出しています。8歳のときに、当時住んでいたニューヨークでADD(注意欠陥障害)と診断されたそうです。こうやって自閉スペクトラム症の人が自分で自分のつらさやどういうことが困難なのかを語ることによって、社会の理解がいっそう進むと思います。

 類さんも、発達特性のひとつとして聴覚過敏があったと書いています。

 日本で暮らしていた保育園時代、もっとも苦手だった音は「園児たちの『がなりたてるような歌声』」だったといいます。子どもというのは元気に楽しく歌えばいいという方針のもと、みんなが音程を外してどなるように歌う声が耐えがたくて、歌の時間は「耳を塞いで甲羅に閉じこもった亀のように固まって地面にしゃがみこむか、断末魔の叫び声を聞いたかのように怖くて教室から逃げ出すばかり」だったと表現しています。どんな音を苦手とするかは、人によって本当にさまざまだということがよくわかるエピソードです。

 類さんはまた、歩くコースが同じでないと落ち着かず、物の配置にも強いこだわりがあるそうです。新しいことが苦手というのは自閉スペクトラム症の性質です。変化に弱いのです。

 他にも、注意力が散漫で忘れ物が多いとか、感情表現が乏しくて無表情に見られがちだとか、人の心を読み取るのが苦手だとか、さまざまな特徴が並べられています。

 感覚の過敏さというのは、こうしたたくさんある症状のうちのひとつなのだということが、この本を読むとよくわかります。

 主治医の先生が本の中で、「類くんの場合、早い段階で診断を受けて、ケアができていたのがよかったと思う」と言っておられます。

 これは神経発達症のケースですが、HSCも同じではないかと私は思います。大人になってから、深くなった心の傷を癒すのはたいへんです。子ども時代に早く敏感さの特徴をつかみ、どう対処したらいいかということをいろいろ考えることができていたら、生きやすさがまったく違ってきます。

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著者

長沼 睦雄

十勝むつみのクリニック院長。1956年山梨県甲府市生まれ。北海道大学医学部卒業後、脳外科研修を経て神経内科を専攻し、日本神経学会認定医の資格を取得。北海道大学大学院にて神経生化学の基礎研究を修了後、障害児医療分野に転向。北海道立札幌療育センターにて14年間児童精神科医として勤務。平成20年より北海道立緑ヶ丘病院精神科に転勤し児童と大人の診療を行ったのち、平成28年に十勝むつみのクリニックを帯広にて開院。HSC/HSP、神経発達症、発達性トラウマ、アダルトチルドレン、慢性疲労症候群などの診断治療に専念し「脳と心と体と食と魂」「見えるものと見えないもの」のつながりを考慮した総合医療を目指している。

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