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論語 全文完全対照版 野中根太郎

第52回

145話~147話

2016.10.05更新

読了時間

145 世間の風評を恐れない


【現代語訳】

孔子先生が衛(えい)公(こう)の夫人で品行よろしくないと評判の南子(なんし)(※)と会われた。これを高弟の子路はとても心配した。しかし、先生は誓って言われた。「私が本当に悪いことをしているのであれば、天が見捨てるだろう。だから安心して見ていなさい」。


(※)南子……衛の霊公夫人。品行がよくないことで有名。それだけ色っぽいことが評判であった。


【読み下し文】

子(し)、南子(なんし)を見(み)る。子(し)路(ろ)、説(よろこ)ばず。夫子(ふうし)、これに矢(ちか)(※)いて曰(いわ)く、予(よ)が否(しから)ずとするところのものは、天(てん)これを厭(す)てん。天(てん)これを厭(す)てん。


(※)矢……誓うの意。矢を折って誓ったことから、「ちか」と訓読みされるようになった。


【原文】

子見南子、子路不説、夫子矢之曰、予所否者、天厭之、天厭之、


146 本物はバランスがいい


【現代語訳】

孔子先生は言われた。「過ぎることもなく、及ばないこともないという中庸(ちゅうよう)の徳は、至上、至極のものである。しかし、最近これが失われがちなのは嘆かわしいことだ」。


【読み下し文】

子(し)曰(いわ)く、中庸(ちゅうよう)の徳(とく)たるや、其(そ)れ至(いた)れるかな。民鮮(たみすく)なきこと久(ひさ)し。


【原文】

子曰、中庸之爲徳也、其至矣乎、民鮮久矣、


147 仁とは自分が望むことを自分のまわりの人にさせることである


【現代語訳】

子(し)貢(こう)は言った。「もし、広く人々に恩恵を施し、多くの人を救済できれば仁といえますか」。

孔子先生は言われた。「それは仁どころではない。しいて言えば聖人か。堯(ぎょう)、舜(しゅん)のような伝説的な聖人でもそれをやるのに苦労されたほどだ。仁者というのは、自分が立ちたいと欲した時には、まず人を立たせる。自分が到達したい時には、まず人を到達させる。このように、身近なことが自分においてできるようになれば仁の人になれるのだ」。


【読み下し文】

子(し)貢(こう)曰(いわ)く、如(も)し博(ひろ)く民(たみ)に施(ほどこ)して能(よ)く衆(しゅう)を済(すく)わば如何(いかん)ぞや。仁(じん)と謂(い)うべきか。子(し)曰(いわ)く、何(なん)ぞ仁(じん)を事(こと)とせん。必(かなら)ず聖(せい)か。堯舜(ぎょうしゅん)(※)も其(そ)れ猶(な)おこれを病(や)めり。夫(そ)れ仁者(じんしゃ)は己(おの)れ立(た)たんと欲(ほっ)して人(ひと)を立(た)て、己(おの)れ達(たっ)せんと欲(ほっ)して人(ひと)を達(たっ)せしむ。能(よ)く近(ちか)く譬(たと)えを取(と)る(※)。仁(じん)の方(ほう)と謂(い)うべきのみ。


(※)堯舜……理想とされた古代の伝説上の天子。

(※)譬えを取る……自分においてもできるの意。


【原文】

子貢曰、如能博施於民、而能濟衆者、何如、可謂仁乎、子曰、何事於仁、必也聖乎、堯舜其猶病諸、夫仁者己欲立而立人、己欲達而達人、能近取譬、可謂仁之方也已、

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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 菜根譚コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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