第28回
【HSCの本】自分を取り戻し、反転していくまでのプロセス
2018.01.19更新
5人に1人といわれる敏感気質(HSP/HSC)のさまざまな特徴や傾向を解説。「敏感である」を才能として活かす方法を紹介します。
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自分を取り戻し、反転していくまでのプロセス
2か月の入院治療の中で、認知行動療法とEMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)、ヒプノセラピー(催眠療法)、個別カウンセリング、親子面接などを集中的に行いました。
何度も親子カウンセリングを行いましたが、母親は、「無理やり何かを押しつけるようなことはしていません。この子がそうやりたいということは、むしろやらせてきたほうです」「それにこの子は何でも親の言いなりにするという子ではなくて、けっこう頑固な子ですよ」と言い、子どもを支配してしまうところがあったことを納得できませんでしたし、子どもの側に立って考えたり感じたりすることは難しいのでした。
心理治療で家族や学校での辛かったエピソードを少しずつ出していきました。
中でも、母親に自分のことを理解してもらえないで育った心の傷が大きく、5歳のインナーチャイルドの気持ちを癒すことが難しかったのです。母に対する強い怒りや、逆に受動性や恐れがあり、過去の依存と葛藤にまつわる苦しみをずっともち続けている状態は、とらわれ型の愛着障がいと思われました。
結局、母親は最後まで子どもの立場に立てなかったので、母親への期待を捨てること、過去の母親を見ないことで母親への怒りの表出を抑えることができました。
その後しばらくして、自分がある感染症にかかっているという心気妄想が激しくなり通院しました。
発達障がいやHSPの中には、アダルトチルドレン(AC)心性をもつ人が少なくありません。ACとは、親から十分なサポートを受けられずに育ち、自己評価が低く周囲の評価に左右されて極端に不安になり、親に愛されなかった飢餓感や見捨てられ不安を持ち続けている状態の人をいいます。育ちの上での親との絆の結び方が、その人の対人関係の鋳型を形成し、その後の人生に大きく影響していくのです。
妄想から脱したのは私の治療ではなく、何かの本を読んだのがきっかけで、憑き物が落ちたように自分で「そうか」と気づき、そこから元気を取り戻します。
こうした立ち直りを私は「反転」と呼んでいます。
多くの人がこうやってとことん苦しんで、どん底まで行って一旦つぶれてから反転して、元気を回復していきます。アルコール中毒患者の治療過程などでよくいう「底つき体験」です。底まで行きつくと、それまでの自分が壊れて、新たなものが出てきて一気に反転して生まれ変わります。
反転という言葉は、いろいろな人が使っています。それぞれ使い方が違うのですが、いずれにしても、裏側にひっくり返るとか、まったく違う性質になるということです。
壊れても再生できるんだ、壊れるからこそ再生できるんだ、みたいな感じですから、つらい思いをしている人にとって希望になる言葉だと思っています。苦しんで、無理に、「そうしなければ」というよりは、受け入れて手放せばいいんだみたいな感じです。
反転した人を何人も見てきましたが、共通しているのは、「もうダメだ」とまわりとの関係を切って、死ぬしかないみたいなところまで、どん底に落ちる。落ちきってしまうと、そこから真逆の行動を起こせるようになるのです。底を打ってあらためて「生きなければ」と思うようになることで、切り替わるのです。
発達するうえでの親との愛着形成の大切さや愛着形成のゆがみや不安定さを考えると、子どもの治療と併行して親の心の治療もせざるを得ません。親と子を別々の治療者が担当するのではなく、一人の治療者が親と子を時に一緒に、時に別々の場で診て、その関係性、つながり、絆を修復していくのです。子どもを優先してとか、子どものために、と正論を説いて、親を表から変えようとしてもダメなのです。もう子育てなどしたくない、子どもが嫌いでしかたがない、と本音を出させ、子どもや家庭よりまず自分が大切と割り切れ、正論から解き放たれたときに初めて、子どもに向き合う覚悟が定まるのです。
何がきっかけになるかというのは本当にいろいろですが、共通するのは、もうダメだ、人生終わりだと、とことん苦しみ抜いているということです。死んでしまうかもしれないというようなギリギリの状況になると、火事場の馬鹿力ではありませんが、何かスコーンと突き抜けて、這(は)い上がる力が湧いてくるようです。それが本当の生命力なのではないかと、私は考えています。
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