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よみものどっとこむ

第27回

自我がなく育った「自分が空っぽ」な子が危ない!

2018.01.12更新

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【 この連載は… 】すぐにびっくりする。興奮したあとはなかなか寝つけない。服がぬれたり、砂がついたりすると、着替えたがる……5人に1人といわれる敏感気質(HSP/HSC)のさまざまな特徴や傾向を解説。「敏感である」を才能として活かす方法を紹介します。

自我がなく育った「自分が空っぽ」な子が危ない!

 同調性が過剰で、本来の自分でないものを取り込んだり、新たに作り出したりして、ニセモノの自分に苦しんでいる子も多くいます。

 ある青年は私のところに来る前に、別の精神科で軽度の広汎性発達障害と診断されています。

 私の見立ては、特定不能広汎性発達障害、ADD/LD傾向、鬱と社会不安、HSP、アダルトチルドレンでした。

 小中学校の成績はよく、生活面での評価もよく、注意記憶力が相対的にやや低い以外、言語性・動作性知能ともかなり高かったです。

 1か月にわたって心理治療を行い、いろいろわかってきました。

 幼少期より友だちと興味が合わず、友だちと遊ぶことが苦手で、ひとりで空想して過ごしていました。就学してからは、友だちと会話することが苦手で、つねに疲労感を感じ、無気力な状態。耳で聴いたことが理解しづらかったため、授業は聞かず、教科書を読むか、丸暗記していました。

 中学生のころから母親に逆らうようになります。

 大学へ進学しましたが、勉強と、友だちとの会話で苦労します。

 就労しますが、指示があいまいだとわからず、臨機応変な対応ができず、人間関係がうまく築けないので精神的に追い込まれ、自ら発達障がいを疑い、精神科を受診しました。

『幼児期から現在まで、周囲の世界になじめず、居場所がなく、親しい友だちや家族関係が築けなかった』(二重カギカッコ内は本人の了解のもと、手記より引用。ただし、個人情報に配慮して細部に変更を加えています)

『自分が生きている世界や人に興味がなく、自我が薄かったために母親が押しつけてくる価値観を丸ごと取り入れることで周囲の世界に対応していた。
 あるとき、その価値観は自分のものではないと気づき、自我だと思っていたものは母親そのものであり、それを捨て去れば自我が残らないことにも気づいた』

 『自分は自我を消し、周囲の環境に合わせないと人とコミュニケーションすることができなかった。生きていく上で主体としての自分をどこに置いていいかわからないし、置き場所もなかった』

 症状は非常に象徴的です。

 『人の感情に左右されやすく、人の心の動きが詳細に感じられ、感情を生々しく感じることがある。人の多くいるところだと、さまざまな感情が次々と押し寄せてきて、疲れたり、気分が落ち込んだりする。具体的には感情を顕わにする、感情表現豊かなタイプの人の近くにいると激しく疲労する。怒りや悲しみなどの感情を人から感じると必要以上にその感情にシンクロして引きずられる。その相手より自分のほうが深く落ち込んだりする』

 典型的な敏感気質といえます。また、

 『相手はほんの少しの感情をこぼしただけだったり、相手がその感情を抱くに至った経緯・エピソードを知らなくても、相手のことをほとんど知らなくても、ただの通りすがりの人でも、その落ち込みは一日中、引きずったりする。
 相手の感情を知らないうちにもらっているという感じ。
 そのため小さいときから現実を自分から感覚的に遠ざけて過ごしてきた。いろいろな思考が勝手に頭に浮かんできて止まらない』

 彼女は普通の人がなにげなくしている雑談ができなくて、「この状況はこういうことを言うといいんだろうな」と、過去の経験から学んだことを頭で考えて話すのです。

 『相手の話す内容に興味を持ち、何らかの反応を返し続ける必要のある雑談はとてつもなく難しい。挨拶などの簡単な会話でさえ苦痛を感じる自分にとっては人間関係を築くことも難しい』

 こんな調子でコミュニケーションには神経を過剰に遣つかうので、とても疲れるわけです。

 『普通の人が自動的にできることをすべて手動でやっているような感じなので、ものすごく集中とエネルギーを必要とする。そのため、少し雑談しただけで何時間も寝込んだり、一日、動けないということが起こる』

 この手記を治療後にいただいて、とても驚いた私は、本人の許可を得て、いろいろな場で紹介し、日常診療でも使わせてもらっています。この内容に共感や同感を示す人は、年齢、性別、発達障がいの有無を問わず、本当に多く存在しています。この症例のように発達障がいとHSPと解離症状と愛着障がいの組み合わせで悩んでいる人がたくさんいるのだろうと思います。

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著者

長沼 睦雄

十勝むつみのクリニック院長。日本では数少ないHSPの臨床医。昭和31年山梨県生まれ。北海道大学医学部卒業。脳外科研修を経て神経内科を専攻し、日本神経学会認定医の資格を取得。北海道大学大学院にて神経生化学の基礎研究を修了後、障害児医療分野に転向。道立札幌療育センターにて小児精神科医として14年間勤務。平成12年よりHSPに注目し研究。平成20年より道立緑ヶ丘病院精神科に勤務し、小児と成人の診療を行う。平成28年十勝むつみのクリニック開業。発達障害、発達性トラウマ、解離性障害などの診断治療に専念し、脳と心と体の統合的医療を行っている。著書に『活かそう!発達障害脳 「いいところを伸ばす」は治療です。』(花風社)、『敏感すぎる自分を好きになれる本』『気にしすぎ人間へ クヨクヨすることが成長のもとになる』(ともに青春出版社)、『コミックエッセイ 敏感過ぎる自分に困っています』(宝島社)などがある。

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