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子どもの敏感さに困ったら 児童精神科医が教えるHSCとの関わり方 長沼睦雄

第4回

【HSCの本】テストで何項目当てはまるかよりも、どんな特性を持っているかを知ることが大事

2017.06.09更新

読了時間

5人に1人といわれる敏感気質(HSP/HSC)のさまざまな特徴や傾向を解説。「敏感である」を才能として活かす方法を紹介します。
「目次」はこちら

今回より、書籍の本文第1章を公開していきます。


第1章 敏感すぎ気質HSCの特性


よく泣く赤ちゃんはHSC?


 お母さんが「うちの子、ちょっと敏感すぎるのでは?」と最初に感じるのが、あまり寝なくてよく泣くこと。夜泣きはよくあることではありますが、お母さん自身の寝不足や疲労感がたまって、とてもつらく感じがちです。


「抱っこしていると泣き止んでウトウトするけれど、ふとんに寝かせようとすると、ワーッと泣き出す。仕方ないから、夜もラッコ抱きの姿勢のまま寝ています」

「乳児期は、夜泣きで毎日が地獄でした。1時間から1時間半おきに泣き、毎晩5、6回起こされていました。おかげで十分睡眠をとることができず、よっぽどやつれた顔をしていたのか、乳児健診のときに『お母さん、寝られている? 大丈夫?』と言われて、涙があふれてしまいました」

「一度泣き出すと、1時間くらいずっと続きます。イライラして赤ん坊相手に思わず声を荒らげてしまい、そんな自分にいっそう自己嫌悪。『夜、子どもが泣いたことなんて熱を出したときくらい』と言うママ友が本当にうらやましい……神様は不公平です」


 よく夜泣きをする子としない子でいえば、やはり、する子は何か敏感さを持っていると思います。では、それがどういう種類の敏感さから来ているのかというのは、いろいろな角度から確認してみないとわかりません。

 赤ちゃん自身、何か安心できないことがあるから泣くわけです。敏感さを持った子だというひとつのサインだと思ってあげてください。そして、どんなことに気をつけてやると、いくぶんでもよくなるかというのを、いろいろやってみることです。

 こういう音を出さないほうがいいようだとか、光を入れないほうがいいとか、衣類や寝具を肌触りの柔らかいものに変えてみるとか、そういう中で、どういうことに反応しやすい子かということがわかってくると思います。

 心の中で一度「育てにくい子」とか「扱いにくい子」という思いを持ってしまうと、次第にその思いが増幅してしまい、「ああ、まただ」「いったいどうすれば泣き止むの?」「いいかげんにしてよ」という気分になってしまいます。

 疲れがたまっているとなかなか心の余裕は持ちにくいでしょうが、窓を開け、新鮮な空気を胸いっぱい吸って、気持ちを切り替え、「ママはずっとここにいるから安心していいよ」「泣かなくて大丈夫だからね」と赤ちゃんの気持ちになって接してあげてください。


 HSPやHSCの提唱者であるアーロン博士はご自身もHSPです。息子さんもHSCで、なかなか眠らず、よく泣く子だったと著書『ひといちばい敏感な子』で書いています。困り果てて考えついたのが、息子さん専用の小さな特製テントを作ってあげることでした。

 そのテントに入ると、外からの雑音が聞こえなくなり、明かりのまぶしさも感じない。かけてあげる毛布は、いつも同じ模様が見えるようにしたそうです。そして、どこかに出かけるときもいつもこのテントを持っていくようにしたら、どこでもスヤスヤ寝るようになったとありました。「ここは安全」「大丈夫なところだ」と思える場所を用意してあげたわけです。3歳になって普通のベッドに移るまで、ずっとこれを愛用しつづけたそうです。

 面白いことに、息子さんは大学生になって自分で部屋をデザインしたとき、就寝用のテントを据え付けたというのです。彼にとって、テントが安眠シェルターになっていたということがよくわかるエピソードです。


テストで何項目当てはまるかよりも、どんな特性を持っているかを知ることが大事


 HSCのチェックリストというものがあります。


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HSCかどうかを知るための、23のチェックリスト


 次の質問に、感じたままを答えてください。子どもについて、どちらかといえば当てはまる場合、あるいは、過去に多く当てはまっていた場合には「はい」、全く当てはまらないか、ほぼ当てはまらない場合には、「いいえ」と答えてください。


01 すぐにびっくりする

02 服の布地がチクチクしたり、靴下の縫い目や服のラベルが肌に当たったりするのを嫌がる

03 驚かされるのが苦手である

04 しつけは、強い罰よりも、優しい注意のほうが効果がある

05 親の心を読む

06 年齢の割りに難しい言葉を使う

07 いつもと違う臭いに気づく

08 ユーモアのセンスがある

09 直感力に優れている

10 興奮したあとはなかなか寝つけない

11 大きな変化にうまく適応できない

12 たくさんのことを質問する

13 服がぬれたり、砂がついたりすると、着替えたがる

14 完璧主義である

15 誰かがつらい思いをしていることに気づく

16 静かに遊ぶのを好む

17 考えさせられる深い質問をする

18 痛みに敏感である

19 うるさい場所を嫌がる

20 細かいこと(物の移動、人の外見の変化など)に気づく

21 石橋をたたいて渡る

22 人前で発表する時には、知っている人だけのほうがうまくいく

23 物事を深く考える


得点評価

 13個以上に「はい」なら、お子さんはおそらくHSCでしょう。しかし、心理テストよりも、子どもを観察する親の感覚のほうが正確です。たとえ「はい」が1つか2つでも、その度合いが極端に高ければ、お子さんはHSCの可能性があります。


(『ひといちばい敏感な子 子どもたちは、パレットに並んだ絵の具のように、さまざまな個性を持っている』エレイン・N・アーロン著 明橋大二訳 1万年堂出版より)


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「23項目のうち13個以上該当したら、おそらくHSCだ」とアーロン博士は言っていますが、実のところ何項目当てはまったかはあまり関係ないと私も考えています。

「チェックリスト、当てはまったのは10項目でした。うちの子はHSCではないと言ってもいいでしょうか?」

 よく、こんなことを聞かれます。

 13個以上というのは、あくまでもひとつの目安です。症状の出方は一人ひとりみな違います。チェック項目というのは、想定される特徴の中のごく一部を挙げているだけで、実際にはもっともっと多岐にわたります。ですから、この項目にいくつ当てはまればそうであるとか、そうではないという定量的な発想では本質にたどりつけません。

 実際には、何項目該当したかということよりも、そういう要素がどれほど強く出ているかのほうがはるかに重要です。

 アーロン博士も、「たとえ一つか二つでも、その度合いが極端に強ければHSCの可能性がある。心理テストよりも、子どもを観察する親の感覚の方が正確だ」と言っています。

 たとえば、当てはまったのは3、4項目とかなり少なかったとしても、その特徴が非常に顕著に出ていて困っていたら、HSCである可能性が高いと考えたほうがいいでしょう。


「自閉スペクトラム症指数」というテストがあります。50の質問項目があって、それぞれ4つの選択肢からひとつの答えを選びます。各項とも、自閉的特徴と見られるものは1点の点数がつき、合計点数によって自閉スペクトラム症の程度が判断されるというものです。障害認定のときにも行われるテストのひとつです。

 しかし、テストはそれぞれが自分の主観で答えます。「ほんの少しそういうところがあるかなあ」という場合も、「その特徴が著しくて、生活に支障が生じて困っている」場合も、等しく1点になります。それほど顕著な兆候ではないけれど35点になる人もいれば、点数にすると5点だけれど、その5項目はどれもものすごく当てはまるという人も出てきます。その人がいま、どれほど深刻に困っているか、その色合いの濃さのようなところは、いくつ当てはまって何点であるという視点からだけではつかめません。

 HSCもそうです。いくつ当てはまるかだけでは、HSCの色合いの濃さ、どの程度つらいことを抱えているか、どのくらい困っているかは判断しきれないのです。

 それでも、チェックリストで診断してみることは大事です。客観的な目で「この子はこういう特性が強く出ている」ということを知るチャンスになります。それによって、子どもの様子にもっと深くいろいろ気づいてあげられるようになります。より観察力を鋭くすることができる。そこに大きな意味があるのです。


本格的な診断には詳細なデータが必要


 実際に私のクリニックの受診を希望される方には、たくさんのセルフチェックリストに記入していただくことにしています。

「これ、じっくり考えながら書いていたら、8時間もかかってしまいました。先生、ちょっとしつこすぎますよ」

 よく患者さんから言われますが、限られた診療時間の中で適切な見立てと助言をするためには、やはりその人についての多面的で総合的な情報が必要なのです。

 その他に、子どものときからの写真や成績表、絵や作文なども持ってきてもらいます。作文とか絵にはその人のその時の心模様があらわれやすいので、非常に参考になるのです。

 読み書きが苦手な人は、セルフチェックリストに答えるのが面倒くさいと言って、あまり書いてこない人もいます。

 敏感すぎ気質の人は、「こんなに書き込むの、大変だったでしょう」と思うほど、細かく書いてきます。基本的に誠実な性格で、責任感の強い人が多いのです。

 子どもの場合は親御さんに書いてもらいますが、子ども自身に書いてもらう子ども用問診票も用意してあり、だいたい小学校2年ぐらいから書けます。

 子ども本人にはそんなにいろいろなことを尋ねませんが、必ずやってもらうことのひとつに、「バウムテスト」といって「実のなっている木を一本描いてもらう」というものがあります。たったこれだけの絵にも、深層心理にあるものが見てとれます。

 HSCの場合、親もHSPであるかどうかでアドバイスの仕方も変わってくるので、親御さん自身のことをいろいろ聞いたりもします。さらにそのご両親、おじいちゃん、おばあちゃんのことも聞きます。

 HSCは親の接し方や心の状態の影響を強く受けるので、その子の診療をするだけではさまざまな症状を改善していくのが難しいため、親子一緒に並行治療のようなかたちで進めていくことが多くなります。

「目次」はこちら


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著者

長沼 睦雄

十勝むつみのクリニック院長。1956年山梨県甲府市生まれ。北海道大学医学部卒業後、脳外科研修を経て神経内科を専攻し、日本神経学会認定医の資格を取得。北海道大学大学院にて神経生化学の基礎研究を修了後、障害児医療分野に転向。北海道立札幌療育センターにて14年間児童精神科医として勤務。平成20年より北海道立緑ヶ丘病院精神科に転勤し児童と大人の診療を行ったのち、平成28年に十勝むつみのクリニックを帯広にて開院。HSC/HSP、神経発達症、発達性トラウマ、アダルトチルドレン、慢性疲労症候群などの診断治療に専念し「脳と心と体と食と魂」「見えるものと見えないもの」のつながりを考慮した総合医療を目指している。

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