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よみものどっとこむ

第10回

障がいの捉え方に対する変化

2017.07.21更新

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【 この連載は… 】すぐにびっくりする。興奮したあとはなかなか寝つけない。服がぬれたり、砂がついたりすると、着替えたがる……5人に1人といわれる敏感気質(HSP/HSC)のさまざまな特徴や傾向を解説。「敏感である」を才能として活かす方法を紹介します。

障がいの捉え方に対する変化

 現在、世界中で使われている精神疾患の国際診断基準には、世界保健機関(WHO)の国際疾病分類(ICD-10)と、米国精神医学会(APA)の精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM-5)があり、前者は1994年に、後者は2013年に改訂されました。

 DSM-5の日本語訳版が2014年6月に出版され、児童青年期の疾患では、病名に「障害」がつくことは児童や親に大きな衝撃を与えるため、それまで「障害」と訳していた「disorder」を「症」と訳すことになりましたが、現場の混乱を防ぐために、新旧両病名を併記することになりました。

 ICD-10が近々ICD-11に改訂されるときには、「症」に統一される可能性があります。「障害」を「症」に変えることで過剰診断や過剰治療をまねく可能性があるとの指摘もありますが、固定的な意味合いをもつ「障害」よりは、変化の可能性を含む「症」のほうが望ましいという意見もあります。

 日本では、DSM-4の「developmental disorder」の訳として「発達障害」が用いられましたが、DSM-5では、「neuro」を頭につけて「神経発達症」としました。

 2005年に成立した発達障害者支援法において、「発達障害」は、「自閉症・アスペルガー症候群・その他の広汎性発達障害・学習障害・注意欠陥多動性障害・その他これに類似する脳機能障害」として法的に定められました。

 DSM-5の「神経発達症」では、「自閉スペクトラム症・注意欠如多動症・限局性学習症・運動症・コミュニケーション症・知的能力障害・その他」に定義されました。

 これらの症群に相当する人の特徴として、小児科医の鷲見聡氏は著書『発達障害の謎を解く』(日本評論社)の中で以下の8つを挙げています。

 (1)定型発達の人々にもみられる特徴や行動であるが、それが極端である

 (2)その特徴や行動が社会生活上の困難さを生む場合が多いが、一方で長所にもなりえる

 (3)定型発達の人々と症群に相当する人々との間に明確な境界はなく、境界域の人々が存在する

 (4)深刻な状況に陥る場合から、個性の範囲内に入る場合まで多様な経過をたどる

 (5)厳密な意味での治癒はないが、社会適応できるようになることはありえる

 (6)原因の詳細は未解明だが、大部分は多因子遺伝というタイプと推測される

 (7)遺伝的要因と環境的要因の両方の影響を受ける

 (8)発達経過によりその特徴や行動が変化しうるので、固定的な障害とはいえない

 知的な能力の障害は、これまでIQ値で分類されていましたが、DSM-5では単にIQ値で区分するのではなく、学力領域、社会性領域、生活自立能力などに関して、それぞれ具体的な症状から重症度の判定を行い、知的能力障害(知的発達障害/知的発達症)と表記されることになりました。

 IQ値での分類では、統計上2パーセントが精神遅滞に相当するのですが、幼児教育が進んだためもあってか、最近の調査では、知的障害は0.8パーセントと減少しており、自閉スペクトラム症の合併が増えていると指摘されています。

 私が発達障がい臨床にたずさわるようになった30年前は、発達障がいという言葉や概念に大人はもちろん子どもでさえも見立てていない時代でした。障がいが重く生活に困難をきたしている自閉症や精神遅滞の子どもたちを診断して療育していたのです。

 それが次第に、知的な障がいが軽いかない多動症や学習症やアスペルガー症候群の子どもたちの診断と受診が増え、2000年ごろから大人の発達障がいの方が診断を求めて受診するようになり、その数はうなぎ上りに増えていったのです。

 精神疾患の脳科学的解明が進むことによって、あるいは、大人の発達障がいの存在が認識されることによって、発達障がいが、子ども時代だけに困難さがあるものではないことや、精神疾患の中でもっとも広範囲な神経科学的な異常があるものと位置づけられ、DSM-5では、年齢による区分けが外され、神経発達症群として精神疾患の筆頭に記載されることになりました。

 そこには、このように解説されています。

 神経発達症群とは、発達期に発症する一群の疾患である。この障害は典型的には発達期早期、しばしば小中学校入学前に明らかとなり、個人的、社会的、学業、または職業における機能の障害を引き起こす発達の欠陥により特徴づけられる。発達の欠陥の範囲は、学習または実行機能の制御といった非常に特異的で限られたものから、社会的技能または知能の全般的な障害まで多岐にわたる。神経発達症は以下のようにしばしば他の疾患に併発する。例えば、自閉スペクトラム症をもつ人は知的能力障害(知的発達症)をしばしば並存し、注意欠如・多動症(ADHD)の子ども達の多くはまた、限局性学習症を並存する。いくつかの疾患において、その臨床像には期待される発達の里程標の到達の欠陥および遅延だけでなくその過剰の徴候も含む。例えば、自閉スペクトラム症は、その特徴的な社会的コミュニケーションの欠陥に過剰な反復的行動、限局した興味、および同一性保持を伴った場合にのみ診断される。

 人間は脳や身体を越えた存在であるけれど、脳や身体に規定された存在でもあります。つまり、心や魂をもつ一方で、脳や身体をもっている。一人ひとりが独自の心や魂、脳や身体という「メガネ」を通して、複雑に入り混じった現実というカオスを見ているので、それぞれに異なる世界が映っているのです。一人ひとりが、あるいは地域や国や文化によって異なる世界の中に生きていることになります。

 少数派は、多数派の考え方や感じ方を強要され、同調圧力をかけられています。「発達障がいは異文化をもつ」ことが、以前から指摘されてきましたが、同調圧力の強い、異文化に接してこなかった日本人は、異なる文化を受け入れることに慣れていない国民なのかもしれません。

 心の病気と健康、定型発達と発達障がいは、、川の右岸と左岸のように分かれてはおらず、境目がなく連続しています。発達障がいがあってもなくても、人は皆境界不明瞭なグレーゾーンの中に生きており、社会が混乱したときに、グレーゾーンから病気や障害に押しやられてしまいます。

 普通といわれている人でも、疲労の蓄積や経済的な貧しさや支援者の不在などでゆとりのない状態になると、普通ではない〝異端〟とみられることをやってしまうことがあるのです。

 普通に生きている人の中にも、病気や障がいの「種」や「芽」や「傾向」がありますし、定型発達の人も「弱い」が症状があり、「時に」症状を出すものです。

 だからといって、病気や障がいを安易に「わかる」と言ってしまってよいものではなく、他人にはわからないし、わかりようのない「体験」があることを踏まえて、異文化として尊重したほうがうまく付き合えるのです。

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著者

長沼 睦雄

十勝むつみのクリニック院長。日本では数少ないHSPの臨床医。昭和31年山梨県生まれ。北海道大学医学部卒業。脳外科研修を経て神経内科を専攻し、日本神経学会認定医の資格を取得。北海道大学大学院にて神経生化学の基礎研究を修了後、障害児医療分野に転向。道立札幌療育センターにて小児精神科医として14年間勤務。平成12年よりHSPに注目し研究。平成20年より道立緑ヶ丘病院精神科に勤務し、小児と成人の診療を行う。平成28年十勝むつみのクリニック開業。発達障害、発達性トラウマ、解離性障害などの診断治療に専念し、脳と心と体の統合的医療を行っている。著書に『活かそう!発達障害脳 「いいところを伸ばす」は治療です。』(花風社)、『敏感すぎる自分を好きになれる本』『気にしすぎ人間へ クヨクヨすることが成長のもとになる』(ともに青春出版社)、『コミックエッセイ 敏感過ぎる自分に困っています』(宝島社)などがある。

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