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子どもの敏感さに困ったら 児童精神科医が教えるHSCとの関わり方 長沼睦雄

第17回

【HSCの本】<子育てアドバイス>他の人の失敗で、泣いたり不安がったりする

2017.10.27更新

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5人に1人といわれる敏感気質(HSP/HSC)のさまざまな特徴や傾向を解説。「敏感である」を才能として活かす方法を紹介します。
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■共感力が高いからこそ。その優しさをうまく育むには他者との境界意識も大切です

「他のきょうだい(お兄ちゃん)を𠮟っていると、そばで聞いているだけで繊細な弟のほうが泣き出してしまいます。𠮟った当人は能天気でぽかんとしているのに。心の中で何が起きているのでしょうか?」

「小学1年ですが、同じクラスの子が先生に忘れ物を注意されたらしく、自分も忘れ物をして怒られるかもしれないと、しつこいほど言い続けます。慎重に準備するのはいいけれど、してもいない忘れ物をするかもするかも、とこだわっているのを見ると、『ちょっと病的な神経質さでは?』と思ったりします」

 感情反応が強く、共感力が高い。これは典型的なHSPです。

 自閉スペクトラム症でも同じようなことは起きます。他の人のことは関係ないという感じでマイペースを貫き、まわりに気を配らないのですが、過剰同調性として起こることがあります。

 この2例は、叱られたお兄ちゃんの気持ちや、先生に注意されたクラスメイトの気持ちを感じとるだけでなく、共感力や同調性が高すぎるために自分も悲しくなったり、不安になったりしているのでしょう。相手の身になる共感だけでなく、相手の感情が勝手に入り込むのではないかと思います。

 相手と同じものが自分にあると共鳴する。これを共感といいます。たとえば、同じ経験があると「それ知っている、やったことある、行ったことある」と話がはずみます。

 共感性というのは、前にも述べたように音叉にたとえられます。敏感な子は体内に音叉をたくさん持っているようなものなので、いろいろなこと、いろいろな人に対して、けっこう深く共感しやすい傾向があります。

 一方、相手と同じ経験もないし、同じ気持ちを持っているわけではないのに、自分の中に相手が侵入してきてしまうという状況があります。本来、自分と他者との間には「境界」があります。自我によって自他の境界を区別し、自分を守ろうとします。ところが、その境界が薄い人がいるのです。それは自我がきちんと育っていないため、自分とは関係ないものとして線引きができない。自他の境界線があいまいなのです。

 この場合、自分の中に共感がなくても、相手の思考、感情、行動がなだれ込んできてしまいます。境界が薄いために、相手の侵入を許してしまうのです。

 これは共感性とは違っていささか問題で、「過剰同調性」といいます。

 共感力の高いHSCには、人の気持ちを読み、人に合わせようとするところがあります。けれども、成長の過程で心の傷やトラウマを抱えるようなストレスフルな環境にさらされ、自我がうまく形成できなかったりすると、過剰同調性が高くなってしまうことがあるのです。

 このあと第3章で紹介する症例の中には、自分が自分でなくなってしまう「解離」という症状を引き起こした人たちの話が登場しますが、解離が起きるのも境界が薄いことが大きな原因です。解離は自分以外のものが入ってきて乗っ取られてしまうような現象です。

 これはHSPという気質を持っているからなるわけではなく、対人関係のあり方に問題をはらんだ環境の中で、自意識に対して認知のゆがみが生じ、過剰に自己抑制を強しいられるような状況がリスク要因になると私は考えています。

 大人になるにしたがって、他者との間にさまざまな境界が育っていきます。境界には、心理的な境界もあれば、物理的な境界、社会的な境界、経済的な境界、いろいろあります。

 いろいろな場面で、自分の問題、他人の問題と区別し、社会のルールに則るということを普通の大人はします。しかし、その境界線があいまいだと、大人でも依存したり依存されたりということをしてしまいます。

 虐待やDVを受けながらも、「自分が悪くてこうなった」とか「あの人には私が必要なのです」と言う人は、心理的な境界に問題が生じています。

「これは相手のお金だ」という経済的境界のない人は、パートナーにやたらと無心をしたり、人や会社のお金に手をつけてしまったりします。また、「これは自分が生きていくための大切なお金だ」という意識が薄いと、「自分しかこの人を助けられない」と貢いでしまったりします。

 正しい共感力が育まれた人は、そうはなりません。自我により、自分を大切にすることを学ぶからです。

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著者

長沼 睦雄

十勝むつみのクリニック院長。1956年山梨県甲府市生まれ。北海道大学医学部卒業後、脳外科研修を経て神経内科を専攻し、日本神経学会認定医の資格を取得。北海道大学大学院にて神経生化学の基礎研究を修了後、障害児医療分野に転向。北海道立札幌療育センターにて14年間児童精神科医として勤務。平成20年より北海道立緑ヶ丘病院精神科に転勤し児童と大人の診療を行ったのち、平成28年に十勝むつみのクリニックを帯広にて開院。HSC/HSP、神経発達症、発達性トラウマ、アダルトチルドレン、慢性疲労症候群などの診断治療に専念し「脳と心と体と食と魂」「見えるものと見えないもの」のつながりを考慮した総合医療を目指している。

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