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論語 全文完全対照版 野中根太郎

第130回

345話~346話

2017.02.01更新

読了時間

【 この連載は… 】 毎日数分で「東洋最大の教養書」を読破しよう! 『超訳 孫子の兵法』の野中根太郎氏による、新訳論語完全版。読みやすく現代人の実生活に根付いた超訳と、原文・読み下し文を対照させたオールインワン。

345 完成された人格者をめざしたい


【現代語訳】

子路が成人、すなわち完成された人格者についてたずねた。孔子先生は言われた。「臧武仲(ぞうぶちゅう)(※)の知恵、孟公綽(もうこうしゃく)の無欲清廉(せいれん)さ、卞荘子(べんそうし)(※)の勇気、冉(ぜん)求の多芸を兼ね備え、これを礼と楽で節度と調和をとっていけば、完成された人格者と言えよう」。

そして、さらに言われた。「ただ、今の時代にそこまで要求するのは難しいかもしれない。だから目の前の利益は正義にかなったものかを考え、生命を投げ出さなければならないような時には一命を捧げ、古い約束も普段の言葉も忘れることはないというのであれば、成人と言ってよいだろう」。


(※)臧武仲……魯の大夫。姓は臧。名は紇(きつ)。諡は武仲。109話に登場する臧文仲の孫にあたる。

(※)卞荘子……魯の卞というところの大夫。戦国策に虎を刺し殺したとあることで有名。


【読み下し文】

子路(しろ)、成人(せいじん)を問(と)う。子(し)曰(いわ)く、臧武仲(ぞうぶちゅう)の知(ち)、公綽(こうしゃく)の不欲(ふよく)、卞荘子(べんそうし)の勇(ゆう)、冉求(ぜんきゅう)の芸(げい)あるが若(ごと)くして、之(これ)を文(かざ)るに礼楽(れいらく)を以(もっ)てすれば、亦(ま)た以(もっ)て成人(せいじん)と為(な)すべし。曰(いわ)く、今(いま)の成人(せいじん)なる者(もの)は何(なん)ぞ必(かなら)ずしも然(しか)らん。利(り)を見(み)ては義(ぎ)を思(おも)い、危(あやう)きを見(み)ては命(めい)を授(さず)け、久要(きゅうよう)(※)に平生(へいせい)の言(げん)を忘(わす)れざれば、亦(ま)た以(もっ)て成人(せいじん)と為(な)すべし。


(※)久要……古い約束。


【原文】

子路問成人、子曰、若臧武仲之知、公綽之不欲、卞莊子之勈、冉求之藝、文之以禮樂、亦可以爲成人矣、曰、今之成人者、何必然、見利思義、見危授命、久要不忘平生之言、亦可以爲成人矣、


346 人の話だけでは断定できないところがある


【現代語訳】

孔子先生が衛の大夫・公叔文子(こうしゅくぶんし)(※)のことを、同じく衛の人である公明賈(こうめいか)(※)にたずねられた。「公叔文子は物を言わず、笑いもせず、物を贈られても受け取らないというのは本当のことですか」。

公明賈は言った。「それはそのように言った人の間違いです。公叔文子は、言うべき時が来てから言いますから誰も嫌がりません。また、楽しんだ後に笑うので、人はその笑いに気づきません。物も正義にかなっているとわかってから受け取るので、人も当たり前と思い気づかないのです」。

先生は言われた。「そういうことなのでしょう。だが、それも本当のことなのだろうか(信じられないところがある)」。


(※)公叔文子……衛の大夫。詳しい人となりはわかっていない。しかし、諡が文とつけられているところからみても、評価の高い人だったのがわかる。ただ、ここでの孔子の言い方からすると、その評価に納得しているものの、本当に評判通りの人であるか、すべては信じていない口ぶりである。

(※)公明賈……衛の人。姓は公明。名は賈。


【読み下し文】

子(し)、公叔文子(こうしゅくぶんし)を公明賈(こうめいか)に問(と)うて曰(いわ)く、信(しん)なるか、夫子(ふうし)は言(い)わず、笑(わら)わず、取(と)らずとは。公明賈(こうめいか)対(こた)えて曰(いわ)く、以(もっ)て告(つ)ぐる者(もの)の過(あやま)ちなり。夫子(ふうし)は時(とき)にして然(しか)る後(のち)に言(い)う。人(ひと)、其(そ)の言(げん)を厭(いと)わず。楽(たの)しみて然(しか)る後(のち)に笑(わら)う。人(ひと)、其(そ)の笑(わら)うを厭(いと)わず。義(ぎ)にして然(しか)る後(のち)に取(と)る。人(ひと)、其(そ)の取(と)るを厭(いと)わず。子(し)曰(いわ)く、其(そ)れ然(しか)り。豈(あ)に其(そ)れ然(しか)らんや。


【原文】

子問公叔文子於公明賈、曰、信乎、夫子不言不笑不取乎、公明賈對曰、以吿者過也、夫子時然後言、人不厭其言、樂然後笑、人不厭其笑、義然後取、人不厭其取、子曰、其然、豈其然乎、


*345話と346話が長文のため、今回は2話のみの掲載となります。


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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 菜根譚コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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