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よみものどっとこむ

第160回

420話

2017.03.15更新

読了時間

【 この連載は… 】 毎日数分で「東洋最大の教養書」を読破しよう! 『超訳 孫子の兵法』の野中根太郎氏による、新訳論語完全版。読みやすく現代人の実生活に根付いた超訳と、原文・読み下し文を対照させたオールインワン。

季氏(きし)第十六


420 職務に全力を尽くし、余計な言い訳はやめよう


【現代語訳】

魯の大夫である季氏が顓臾(せんゆ)(※)を攻めて、自分の領地を広めようとしていた。季氏の家臣となっていた冉有(ぜんゆう)と季路(子路)は、孔子先生に会いに来て報告し、たずねた。「季氏が顓せん臾ゆ を攻め取ろうとしていますが、どうしたものでしょうか」。

先生は言われた。「求(冉有)よ、お前は過(あやま)っているのではないか。そもそも顓臾という国は、昔、我が先生(周の祖先)が東蒙山(とうもうざん)を祭るためにつくられたところである。しかも、魯の領地内にあって、魯の由緒ある家臣が守っている。どうして攻め取る必要があろうか」。

冉有は言った。「主人である季氏が攻めることを望んでいるのです。私たち二人は、これに賛成しているわけではありません」。

先生は言われた。「求よ。昔の立派な記録官であった周任(しゅうじん)の言葉に『力の限り職務を遂行し、それができない時は職を辞める』というのがある。国が危うくなっているのにそれを支えることもできず、転びかけているのにそれを助けようとしないのでは、国の宰相などいらないではないか。それに、お前が今言ったことも間違っているぞ。虎や野牛が檻(おり)の中から逃げ出したり、亀の甲や玉(ぎょく)などの宝物がその箱の中で壊れたら、これは誰の過ち、責任なんだ」。

冉有は、さらに言い訳をした。「今の顓臾は堅固な備えをしていて、季氏の領地の費(ひ)の近くにあります。今のうちに攻め取っておかないと後々、季氏の子孫の心配の種となると思います」。

先生は言われた。「求よ、君子というのは、欲しいのに欲しいと率直に言わないで、あれこれ言い訳をしながら欲しいものを手に入れようとする者を憎む者だぞ。私はこう聞いている。『国を治め、家を治める者は、人が少ないことを心配するのではなく、取り扱いが公平でないことを心配し、貧しいことを心配するのではなく、人心が安定しないことを心配する』と。なぜなら公平であれば、自分だけが貧しいとひがむ気持ちがなくなる。人々がお互い和して仲よくなれば、人口の少ないことは心配する必要がない。こうして人心が安定すれば、国や家が危うくなることもない。このような次第であるから、遠方の人が従わない時は、まず自分のほうが文化や徳の溢れる社会をつくり、向こうからやってきた人たちが安心してくらせるようにしなければならない。それなのに、今、由(子路)と求(冉有)は、主人たる季氏を補佐していながら、遠方の人が心服してやってくるようなこともできず、国が分裂して崩壊する危険があるのに防ぐこともできない。それでいて、戦争を起こして、ごまかそうとしている。私が心配しているのは、季氏の子孫の危険は顓臾にあるのではなく、身内の中にあるのではないかということである」。


(※)顓臾……魯の属国。


【読み下し文】

季氏(きし)、将(まさ)に顓臾(せんゆ)を伐(う)たんとす。冉有(ぜんゆう)、季路(きろ)、孔子(こうし)に見(まみ)えて曰(いわ)く、季氏(きし)将(まさ)に顓臾(ぜんゆ)に事(こと)(※)有(あ)らんとす。孔子(こうし)曰(いわ)く、求(きゅう)や、乃(すなわ)ち爾(なんじ)是(こ)れ過(あやまっ)てること無(な)きか。夫(そ)れ顓臾(せんゆ)は、昔者(むかし)先王(せんおう)(※)、以(もっ)て東蒙(とうもう)の主(しゅ)と為(な)り。且(か)つ邦域(ほういき)の中(なか)に在(あ)り。是(こ)れ社稷(しゃしょく)の臣(しん)(※)なり。何(なん)ぞ伐(う)つを以(もっ)て為(な)さん。冉有(ぜんゆう)曰(いわ)く、夫子(ふうし)之(これ)を欲(ほっ)す。吾(われ)二臣(にしん)の者(もの)は皆(みな)欲(ほっ)せざるなり。孔子(こうし)曰(いわ)く、求(きゅう)や、周任(しゅうじん)言(い)える有(あ)り。曰(いわ)く、力(ちから)陳(の)べて列(れつ)に就(つ)き、能(あた)わざれば止(や)む、と。危(あや)うくして持(じ)せず、顚(くつがえ)りて扶(たす)けずんば則(すなわ)ち将(は)た焉(いずく)んぞ彼(か)の相(しょう)(※)を用(もち)いん。且(か)つ爾(なんじ)の言(げん)過(あやま)てり。虎兕(こじ)、柙(こう)より出(い)で、亀玉(きぎょく)、櫝中(とくちゅう)に毀(やぶ)れなば、是(こ)れ誰(たれ)の過(あやま)ちぞ。冉有(ぜんゆう)曰(いわ)く、今(いま)夫(そ)れ顓臾(ぜんゆ)は固(かた)くして費(ひ)に近(ちか)し。今(いま)取(と)らずんば、後世(こうせい)必(かなら)ず子孫(しそん)の憂(うれ)いと為(な)らん。孔子(こうし)曰(いわ)く、求(きゅう)や、君子(くんし)は夫(そ)の之(これ)を欲(ほっ)すと曰(い)うを舎(お)きて、必(かなら)ず之(これ)が辞(じ)(※)を為(な)すことを疾(にく)む。丘(きゅう)や聞(き)く、国(くに)を有(たも)ち、家(いえ)を有(たも)つ者(もの)は、寡(すくな)きを患(うれ)えずして均(ひと)しからざるを患(うれ)え、貧(まず)しきを患(うれ)えずして安(やす)からざるを患(うれ)う、と。蓋(けだ)し、均(ひと)しければ貧(まず)しきもの無(な)く、和(わ)すれば寡(すくな)きこと無(な)く、安(やす)ければ傾(かたむ)くこと無(な)し。夫(そ)れ是(かく)の如(ごと)し。故(ゆえ)に遠人(えんじん)服(ふく)せざれば、則(すなわ)ち文徳(ぶんとく)を脩(おさ)めて以(もっ)て之(これ)を来(き)たす。既(すで)に之(これ)を来(き)たせば、則(すなわ)ち之(これ)を安(やす)んず。今(いま)、由(ゆう)と求(きゅう)や、夫子(ふうし)を相(たす)け、遠人(えんじん)服(ふく)せずして、来(き)たすこと能(あた)わず。邦(くに)、分(ぶん)崩(ぼう)離(り)析(せき)して守(まも)る能(あた)わざるなり。而(しこう)して干戈(かんか)(※)を邦内(ほうない)に動(うご)かさんと謀(はか)る。吾(われ)恐(おそ)らくは季孫(きそん)の憂(うれ)いは、顓臾(せんゆ)に在(あ)らずして、蕭牆(しょうしょう)の内(うち)(※)に在(あ)らん。


(※)事……ここでは戦争のこと。

(※)先王……堯舜以来の天子ともいい、周の天子成王ともいわれている。

(※)社稷の臣……公家の臣。ここでは魯公の直接の臣。

(※)相……盲人を助ける者。ここでは宰相のこと。

(※)辞……言い訳。

(※)干戈……「干」は楯(たて)、「戈」は戟(げき)を意味し、「干戈」で戦争を意味する。

(※)蕭牆の内……屛(へい)の内のこと。つまり、家の中のことを指す。


【原文】

季子將伐顓臾、冉有季路見於孔子曰、季氏將有事於顓臾、孔子曰、求、無乃爾是過與、夫顓臾、昔者先王以爲東蒙主、且在邦域之中矣、是社稷之臣也、何以爲伐、冉有曰、夫子欲之、吾二臣者、皆不欲也、孔子曰、求、周任有言、曰、陳力就列、不能者止、危而不持、顚而不扶、則將焉用彼相矣、且爾言過矣、虎兕出於柙、龜玉毀於櫝中、是誰之過與、冉有曰、今夫顓臾固而近於費、今不取、後世必爲子孫憂、孔子曰、求、君子疾夫舍曰欲之而必爲之辭、丘也聞、有國有家者、不患寡而患不均、不患貧而患不安、蓋均無貧、和無寡、安無傾、夫如是、故遠人不服、則脩文德以來之、既來之則安之、今由與求也、相夫子、遠人不服、而不能來也、邦分崩離析而不能守也、而謀動干戈於邦內、吾恐季孫之憂、不在於顓臾、而在蕭牆之內也、


*420話が長文のため、今回は1話のみの掲載となります。


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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。著書に『超訳孫子の兵法』、『吉田松陰の名言100』、『武士道の名言100』、『真田幸村の凛とした生き方』(以上、アイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術』(誠文堂新光社)などがある。

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