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論語 全文完全対照版 野中根太郎

第20回

55話~57話

2016.08.18更新

読了時間

55 わかっているつもりでもていねいにたずねて行うのが礼


【現代語訳】

孔子先生が魯(ろ)の始祖である周(しゅう)公(こう)の大廟(※)に入って祭りにたずさわった時、儀式をすすめる際に、いちいち先輩にたずねつつ行った。これをある人が見て陰口を言った。「だれがあの鄹(すう)(※)生まれの若造を礼に詳しい人と言ったのだ。人に聞いてばかりではないか」。

これを聞いた孔子先生は言われた。「このようにていねいにたずねつつ進めていくのが本当の礼のやり方というものだ」。


(※)大廟……始祖の霊廟のこと。ここでは魯の始祖周公担の廟。

(※)鄹……魯のある地方の村の名。孔子の父がその村の長官だったことから孔子のことを「鄹人の子」といったのだろう。失礼ないい方に聞こえる。


【読み下し文】

子(し)、大廟(たいびょう)に入(い)り、事(こと)ごとに問(と)う。或(あ)るひと曰(いわ)く、孰(た)れか鄹(すう)人(ひと)の子(こ)礼(れい)を知(し)ると謂(い)うや。大(たい)廟(びょう)に入(い)りて事(こと)ごとに問(と)えり。子(し)これを聞(き)いて曰(いわ)く、これ礼(れい)なり。


【原文】

子入太廟、毎事問、或曰、孰謂鄹人之子知禮乎、入太廟、毎事問、子聞之曰。是禮也、


56 礼とは心であり、力くらべではない


【現代語訳】

孔子先生は言われた。「弓を射る競技において、必ずしも的の皮を射ぬくことは問わなかった。人によって力の強弱があるからで、それがもともとのやり方だった。しかし、今は皮を射ぬくことを求められる力くらべになったようだ。礼とは力くらべではないのに」。


【読み下し文】

子(し)曰(いわ)く、射(しゃ)は皮(ひ)を主(しゅ)とせず。力(ちから)を為(な)すに科(か)を同(おな)じくせず。古(いにしえ)の道(みち)なり。


【原文】

子曰、射不主皮、爲力不同科、古之道也、


57 儀式にはもともと意味があるはずで無駄に思えることでも安易に否定してはいけない


【現代語訳】

子(し)貢(こう)は、すたれた儀式である告朔(こくさく)(※)という儀式がすたわれているのに、羊の生肉を捧げることは残っていたので、これも廃したらよいと考えて提案した。

孔子先生は子貢に言われた。「賜(し)(子貢)よ。お前は羊を惜しいと見ているが、私はむしろ告朔の礼がまったくなくなってしまうことが惜しい」。


(※)告朔……毎月一日に先祖の廟に生きた羊をいけにえとして捧げ、月の一日を告げて、その月の歴を受ける儀式。


【読み下し文】

子(し)貢(こう)、告朔(こくさく)の餼(ぎ)羊を去ら人と欲す。子曰く、賜(し)や、爾(なんじ)は其(そ)の羊を愛(おし)む。我(われ)はその礼(れい)を愛(おし)む。


【原文】

子貢欲去告朔之餼羊、子曰、賜也、女愛其羊、我愛其禮、

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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 菜根譚コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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